146 『レディトリガー』
――ああ、やっぱり天才だ。本物の天才剣士なんだな~、ミナトは。
ツキヒの長巻も軽やかにいなし、《シグナルチャック》にも平然と対応してゆくミナト。
あまりの優雅さに感嘆してしまう。
前回は、刀より大きい長巻に戦い慣れないミナトを相手に、ツキヒは互角にやり合えた。
しかし、今のミナトはもうすっかり長巻の間合いも理解し抜いている。
また、《シグナルチャック》を挟んで隙をうかがっても、まるで崩せない。
――おれは、ミナトの魔法に半透明化するものがあると予想した。それは間違ってない。たまに、おれの剣を避けきらずに透かしてくる時があるからだ。
あえてギリギリを狙って、攻撃を透かしてくるのである。目がいいツキヒには、実際に残像ではなく剣が当たっているはずだとわかるのだが、
「ミナト選手とツキヒ選手も激しい応酬だぞ! しかし、ミナト選手は終始軽やかだ! またもや紙一重に避けたー! なんというギリギリの動きだ! すごいぞ、ミナト選手!」
とクロノが言うように、観客のほとんどはミナトが神業で避けていると思うことだろう。
――ミナトの剣が的確でパワフルで速すぎるから、なかなか《シグナルチャック》の準備もできなかった。一瞬だけ片手を離して心臓を触るなんて余裕、ないしね。
しかしその間、ずっとなにもできなかったわけじゃない。
――何度か片方の手とか口とか耳も触って、《シグナルチャック》を発動させたけど、どれも即座に流れるような動きで解除してみせた。さすがだよ。でも、やっと整った。ここからは、本気で心臓を狙わせてもらうよ。
打ち合いを続けながら、なんとか左右の手で自らの心臓に触れることができた。
これによって、《シグナルチャック》を飛ばせるようになった。
指先をミナトに向けて、その先にちゃんとミナトがいれば、心臓を止めることができる。
――心臓が止まったら、あとは十秒だけ解除させなければいい。解除までの時間を作る。追い打ちをかけて、解除させない。それがおれの勝利条件だ。
人間は、十秒から十五秒ほどで、心臓の停止に伴い意識を失う。
ただしそれは完全に意識を失う時間の話であり、ツキヒの経験上、十秒も心臓を止めてやれば、相手はなにもできなくなる。
そのための十秒を稼ぐ。
実際には十秒もいらないが、目標として確実に倒すための十秒を意識する。
――発動と追い打ち。ミナトを相手にそれは結構しんどいけど、やらないとね~。ついでに……。
と、ツキヒはサツキにも《シグナルチャック》を投げておく。
ミナトを相手に戦いながらも、ツキヒは指先を何度かサツキに向けていた。
目の前のミナトが手強い分あまり狙いはつけられないが、今のサツキはヒヨクとしゃべっていて無防備。
そうしていると、ミナトが剣を振るってきた。
パッと薙いで、ミナトの剣を受ける。
「さあ。ここからがおれの本領発揮だよ~」
「へえ。楽しみだなァ」
本当に楽しそうな笑顔でミナトは斬りかかってくる。
――純粋ですごく楽しそうだ。どこまでも剣が好きなんだね~。でも、そんな天才剣士のキミを、ここで仕留めてあげるよ。
ついに、ツキヒが仕掛けてゆく。
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