145 『ハートビートアイ』
「それと? なんですか?」
リラに促されて、ルカは言った。
「メフィストフェレスは、また来ることになると言っていた。サツキと話がしたいみたいだったわ。その約束はしたのだけれど、どのみちサツキが無茶して怪我するからまた来るとも言っていたのよ。もし自動で回復するなら、その必要はないじゃない?」
「そうですね。ただおしゃべりするために戻ってきてほしい、と言うだけですよね」
「つまり、サツキの瞳に埋め込まれた《賢者ノ石》は完璧な代物ではない。制限や条件があるかもしれないわ。それはきっと、不完全な《賢者ノ石》。そして、サツキに《賢者ノ石》をコントロールする力があるのかもわからない」
チナミも首をひねる。
――コントロール下におけるものかどうかもわからない。けど、意図せぬ変化が身体に起こることだってあるかも。
ナズナが小さな声でチナミに聞く。
「大丈夫、だよね?」
「どうなるかは、サツキさん次第。そして、《賢者ノ石》の効能次第」
こればかりは想像を超える話なのだ。
サツキが《賢者ノ石》の治癒効果に気づいて怪我を恐れず戦うようになっても、それによって慎重さを欠くことになればプラスとは言い切れない。うまくコントロールすべきは、《賢者ノ石》というより理性のほうになるかもしれない。
同時に、《賢者ノ石》がほかになにか治癒以外の効能を持っていたら、サツキがそれに振り回されることだってあり得る。
情報通のリディオとラファエルも知らない、想像もできないもの。
それが今のサツキだと言えた。
サツキは、自分自身がわかることを整理した。
――手首の痛みが徐々に引いていっている。完全に治る感じではないが、修復されているとわかる。その実感は、折れた骨が元通りになるようなわかりやすい部分だけじゃなく、肌の感覚からもある。
さらに、左目がじんわり温かかったのが強くなる。
――左目の温かさが、燃えるみたいな熱になっていく。じんじんと、左目から全身に波紋が広がる感じだ。ドクンドクンと、左目の奥が心臓のように鼓動して、身体を超回復させる血液を全身に送っているみたいな。
呆然とサツキの様子を見ていたヒヨクが、「ヒヨク」と鋭く叫ぶツキヒの声でふっと我に返って、
「サツキくん。左目、もっと輝いてきてる。手首も治ってきてるね。そんな力があるなんて、知らなかったよ」
「実は、俺もだ。俺も初めて知った。なんだか《波動》と共鳴して魔力まで高まっている気がする」
「それはすごいなあ。ぼくが思っていたよりずっとおもしろいよ、サツキくんは。でもさ……」
「ん?」
「そんな能力があるんだったら、ぼくも思い切りやっていいよね? 次は全身を粉砕して、治る前に、また場外にでも飛ばしてあげるよ」
ヒヨクの目の色が変わった。やる気になっている。もう手加減なしでいくという意思を感じる。
サツキはそのヒリヒリした空気に、息が詰まりそうになる。
――まいったな。本気だ。また治ってくれるかもしれないが、痛みはある。ヒヨクくんに近づきたくない。だが、やるしかない。
腹に力を込めて、サツキは言い返した。
「望むところだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます