143 『マテリアルレッド』
イストリア王国、首都マノーラ。
この町のとある場所に、闇医者・ファウスティーノの住居がある。そこは病院でもあり、モルグでもあった。
ファウスティーノはサツキの治療を終えた後、本を読んでいた。病理医でもある彼は、常に知識を求めている。そういう性分なのだ。
一度召喚されまだその場にいる悪魔・メフィストフェレスは、ヒマを持て余すように部屋の中を歩き回りながら、ファウスティーノにしゃべりかけた。
「ああ、ファウスティーノ。ヒマだよ、ボクは」
「さっき彼らと話したことで、これから持て余す退屈は想像の翼を羽ばたかせる無限の空となるのだろう? メフィストフェレス」
「一通り考えてみた。それによって楽しい時間を過ごせた。しかし、情報の不足は期待するばかりの時間であり、持て余す時間なのさ。次の情報を待つしかできないのだからね」
「おまえというやつは」
と、ファウスティーノは小さく息をつく。
メフィストフェレスは空いているテーブルに座って足を組み、また別の話を始めた。
「城那皐くんのことなんだが、彼は戦っているかな?」
「目覚めに関してはなんとも言えないのだ。普通、あのまま数時間はまだ目覚めないだろう。しかし、彼の治癒力は普通ではなかったのだ。同時に、彼はどこか普通の人間ではない」
「そうだね。まず彼は、この世界の人間ではないしね」
「この世界の人間ではないゆえに、魔力の影響を受けやすいのか。それとも、彼が特殊なのか。あるいは、仲間が彼にかけた治癒力を高める歌の力が効いたのか。いずれにしても、普通の結果にはならないのだ」
「ボクも同感だよ。やはり今頃彼はコロッセオで決勝戦を戦っていることだろう。前回大会優勝のスコットとカーメロがいない決勝戦でも、相手は手強いだろうね」
「なぜそう思う?」
「宝来瑠香くんによれば、その相手というのは、城那皐くんとあの
「そうか。だとして、おまえはなにが言いたいのだ」
「大したことじゃないさ。だとすれば、城那皐くんは追い込まれている。そう思わないかい? ファウスティーノ」
まるでそれを期待するような口ぶりに、ファウスティーノは返答に迷った。
なにも反応を示さないファウスティーノに対して、メフィストフェレスは言葉を続けた。
「言われずとも答えはわかっている。そうだろう? 彼は追い込まれている。そうなったとき、彼はどうなるのだろう。彼の様子をずっと見守ってくれる宝来瑠香くんが、なんと報告してくれるのか。楽しみだよ」
「はあ」
と、ファウスティーノは嘆息した。
「やはり、おまえは城那皐になにかしたのだな」
「気づいていたかい? ファウスティーノ」
「おまえは、怪しげな素振りは見せていたのだ。そのときはあえて見て見ぬ振りをしていたが、今の言葉でわかったのだ」
「今のってなんだい?」
「報告してくれるのか、という部分なのだ。なぜ、宝来瑠香がわざわざおまえに報告をするのだ? それは、彼女がおまえの不審な動作に気づいていたことに、おまえも気づいていたからなのだ。だから、あとでそれによって起こった城那皐の変化を問いただされると思った。違うか?」
メフィストフェレスはうれしそうに手を叩いた。
「ご名答。やっぱりキミはボクのことをよくわかっているね。そうなると気になってこないかい? ボクが彼に、なにをしたのか」
「それを聞いているのだ」
「時にファウスティーノ。ボクはいったい何者だ?」
「?」
ファウスティーノは急な質問で答えに詰まる。
「おまえは私が召喚した悪魔。だが、《賢者ノ石》によって生み出された悪魔なのだ」
「そう。そうだね、ボクは悪魔だが《賢者ノ石》を素材にしている。すなわちそれは、ボクは《賢者ノ石》によって創られた存在ということだ。同時に、悪魔とはキミたち俗世の人間による概念に過ぎず、キミたちがボクを呼ぶ際にカテゴライズしたイメージだと言える」
「原材料の話で科学は語れる。だが、おまえは錬金術によって生まれた」
「ああ。ボクはそういう概念を具現化した《賢者ノ石》そのものなのさ。同時に、智恵や心もある。ホムンクルスとも違った、悪魔。そんなボクには、《賢者ノ石》を生み出す智恵まで身についた。ボクは《賢者ノ石》でありながら、《賢者ノ石》を扱うことができるのさ」
そこで、ファウスティーノもメフィストフェレスの言いたいことがわかった。
「メフィストフェレス。つまりおまえは、城那皐に《賢者ノ石》を埋め込んだのだな? なにが目的なのだ」
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