131 『カーディアックアレスト』
ツキヒの《シグナルチャック》は、機能を閉ざす魔法である。
サツキとミナトはそう理解していた。
以前戦ったとき、ツキヒは投げキッスをするように、口に指を当ててから相手に指先を向ける動きをした。
このとき、人差し指と中指でそれを行うのだが、《シグナルチャック》という信号が送られた相手は口が閉じられてしまう。口がきけなくなるのだ。
閉ざせる機能は口だけではない。
たとえば、ツキヒが自分の耳を触ってから指先を向ければ、信号を受け取った相手は耳が聞こえなくなる。目を触れたあとに指先を向けられれば目が見えなくなる。
ゆえに、サツキとミナトは、《シグナルチャック》を「触れた場所の機能を閉じる魔法」と定義して戦ったのだ。
目が見えなくなれば相手の攻撃が見えなくなるし、耳が聞こえなければ仲間の声が聞こえず連携が取れなくなる。口がきけなくなれば、仲間の身に危機が迫っていても教えられなくなる。
前回の試合では、この魔法によって、サツキとミナトは連携が取れなくなってかき乱され、敗北した。
だから今回は注意してツキヒの指先を見ていた。
――《シグナルチャック》は送られた。だが、目、耳、口、どこにも触れていなかった。触れていたとすれば、胸……?
特に左胸だろうか。
――顔に指をもっていく途中に、さりげなく左胸に触れてような気がする。それくらいに自然に通り過ぎた。
サツキがそれに気づいたとき、ミナトは駆け出しており、驚異的な反射神経と空間把握能力で指先の動線を回避していた。
その指先が示すラインを外れれば、ツキヒの魔法は回避できるものと思われるのだ。
だが、その信号は光や電気のように一瞬で届くほど高速なもので、ミナトほどに反射神経がよくてもギリギリかわせるかどうかというくらいだ。
ただし、空間把握能力が著しく高いミナトには、軌道がよく見えていたのである。加えて瞬発力も常人の比ではなく、決して余裕ではないかもしれないが、完全にかわせていたのだった。
「先制攻撃はツキヒ選手の《シグナルチャック》だ! だが、これをミナト選手は軽やかによけて、攻めに転じる! ついに幕を開けた決勝戦、どんな戦いを繰り広げるのか! まずは……ミナト選手が抜刀したー!」
が。
クロノの見ているところに、ツキヒの狙いはなかった。
実況によってみんながミナトに注目している中、指先が最後に向けられていたのは、サツキだった。
――ギリギリで、軌道修正したのか……! ミナトにかわされるとわかって、ターゲットを俺に変えたんだ! でも、だったら左胸による狙いは、まさか……。
サツキは《緋色ノ魔眼》で動体視力も強化されて、ツキヒの動きを見切れないわけじゃない。
しかし、これほどギリギリのタイミングでも軌道修正ができるとは思わなかった。ツキヒがどこに触れてから《シグナルチャック》を送ったのか、その分析もしていたからこそ身体の反応が遅れた。
「大丈夫、死にはしないから」
ツキヒがそう言ったのがわかった。
次の瞬間、サツキは驚愕に目を大きく見開く。
――わかる! 一瞬なにが起こったかわからなかったけど、わかるぞ。これは、心臓が止まったんだ! 左胸を触ったのは、心臓の機能を止めるためだったのか!
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