129 『ゴーステージ』

 サツキが目を覚ますと、いっしょに横で見守っていたリラたちが喜びの声をあげた。


「やっと、意識が戻ったのですね!」

「よ、よかった、です」

「おはようございます。ですが、もう試合です」


 参番隊の三人に続けて、ヒナがバンジョーとサツキに声をかける。


「バンジョー、止まって。サツキ、歩ける?」

「うむ。大丈夫だ」


 先にサツキが答えて、バンジョーが足を止めて振り返った。

 背中の声に、バンジョーは足を止めて振り返った。


「お? サツキ! 目が覚めたのか?」

「バンジョー、ありがとう。ルカたちもありがとう。ここまで運んでくれて助かった。いってくるよ」


 すぐ横にいたルカが、サツキに言った。


「サツキ。あなたはもう、完璧に治っているわ。やってきなさい」

「任せてくれ」

「ここまで来たんだから、絶対に勝つのよ! 相手はヒヨクとツキヒ。同い年の相手に手加減はいらないわ」


 と、ヒナが言って、リラとナズナとチナミの参番隊も声をかける。


「ヒヨクさんとツキヒさんは、お話に聞いていた以上の魔法を使って于淵うえんさんたちに勝ちました。気をつけてください」

「応援、してますね。また、《げんうた》……歌います」

「本当はあの人たちの魔法の脅威を説明しておきたいですが、今は時間がありません。だから一つだけ。手袋の片方は、またミナトさんに渡しておいたほうがいいです」


 ナズナが歌ってくれているおかげで、みるみるとパワーが沸いてくるようだった。疲労の回復も完全にできた気がしてくる。

 また、チナミの助言の意味はわからなかったが、それだけ危険な魔法を使うということは理解した。


「うむ。そうしよう」


 こくりとチナミがうなずき、いつのまにか横にいたアキとエミが、サツキにピースサインを送った。


「勝利祈願の《ブイサイン》」

「安全祈願の《ピースサイン》」


 それぞれ、勝負事に勝ちやすくなる魔法と、安全性が高まる魔法である。本人の頑張り、注意、行動によって結果は変わるので、必ず勝てるわけではないし怪我をしないわけでもない。

 しかし、二人に、


「頑張ってね!」


 と声をそろえて言ってもらって、サツキは心強く感じられた。


「アキさんとエミさんも、ありがとうございます」


 二人にいってらっしゃいと背中を押されて、サツキはミナトの元へと歩いて行く。

 ミナトの立つすぐ後ろは、もう光の下だ。

 だからなのか、サツキにはミナトが輝いてみえた。


 ――ミナトといっしょなら、勝てる気がする。頼もしいよ。


 右手のグローブを外しながら近づく。


 ――右利きのミナトは右手で刀を持つことが多い。スコットさんみたいな魔法にも干渉されずに刀を扱えるよう、右手のグローブを渡すほうがいいよな。


 ミナトがいつもと変わらない透明な笑顔で言った。


「お疲れ。来ないかと思ったよ」

「来るに決まってるだろ。これ、使ってくれ」


 グローブを渡され、ミナトは受け取り右手に装着した。


「うん。ありがとう。さっきの試合見てたけどさ、前とはまったく違う相手だと思って戦ったほうがいいよ」

「そのつもりだ」


 ここで、会話を打ち切るように、『司会者』クロノの声が響いた。


「みなさん、長らくお待たせしました! 選手たちも充分に休息を取れたことでしょう! それでは、決勝戦を行います! おっと、先に舞台にあがってきたのは、ヒヨク選手とツキヒ選手だ!」


 サツキとミナトは顔を見合わせ、言葉を交わす。


「いくぞ」

「やろう」


 そして、後ろから士衛組のみんなが応援してくれる中、二人も光の下へと出ていった。

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