128 『アウェイクボイス』
治療を終えてコロッセオへ帰って来たサツキ。
しかし、サツキの意識は回復しておらず、まだ目覚めていない。
ルカは冷静に言う。
「サツキの身体は健康な状態に戻ったわ。けれど、壮絶な試合と短時間の治療で脳や身体に大きな負荷がかかった。あとどれくらいで目覚めるのか、サツキ次第ね」
「ミナトさんはもう準備して、袖で呼ばれるのを待っています。サツキ様をそこまでは連れて行ったほうがいいですよね?」
クコが尋ねると、レオーネはうなずいた。
「そうだね。そうしてやるといい。オレは一足先にロメオの横に戻っておこう」
上着をはためかせ、レオーネは歩いていった。
おそらく、レオーネの到着を見れば、『司会者』クロノもサツキが治療を終えて連れられてきたと察することになる。そうなると、クロノは決勝の開始を宣言するだろう。
それまでにサツキが目覚めなければならない。
でなければ、サツキはルール上決勝戦に参加できない。ミナトが一人でヒヨクとツキヒを相手にすることになる。
「おっし! とにかく、オレがサツキを背負っていくぜ!」
バンジョーが申し出て、クコたちもついていく。
まだ目覚めないサツキをバンジョーが背負って、ミナトのところへと運ぶ。同行するのは士衛組のメンバーだ。
移動中、クコはサツキの手を握っていた。
「(サツキ様。目を覚ましてください。もう試合が始まりますよ。私の声、届いていますか?)」
手をつなぐことで、声を出さずに相手とテレパシーで会話できるクコの魔法《
これによって、クコはサツキの意識に呼びかけていた。
「(ミナトさんが待っています。決勝戦が始まるのです。サツキ様、お目覚めください)」
声に出すより、直接サツキの意識に声をかけたほうが、サツキに届くのではないかと思ったのである。
何度もテレパシーで呼びかけて、治療が無事に終わったことやロメオがサツキのために時間稼ぎをしてくれたことなども話した。
そして、ついにミナトの姿が見えるところまで来たとき、クコは強くサツキに願いを込めた。
「(さあ、サツキ様。ミナトさんが見えました。いよいよ試合の時間となります。お願いです、わたしたちのために、勝ってください!)」
手を握る力も強くなり、
「(わたしはサツキ様をいつも応援しています! 決勝戦も、いつも以上に応援します! 頑張ってください! 目を覚ましてください!)」
そのとき、サツキの目の周りが動いて、パチッと瞳が開いた。
「サツキ様!」
「クコ、声が聞こえたぞ。頑張ってくるよ」
ずっと目覚めなかったサツキが、クコの頑張ってくださいの声に反応して意識を取り戻したのである。
サツキの強い瞳の輝きを見て、クコは笑顔を浮かべた。
「はい!」
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