127 『カムバックコロッセオ』

 時刻が十四時半を回った頃。

 レオーネがファウスティーノのモルグにやってきた。


「お疲れ様。ファウスティーノ。サツキくんの様子はどうかな?」

「リディオにも言った通りだ。治療も済んだ。あとは意識の覚醒を待つばかりとなった」


 ファウスティーノは小さく息をつき、テーブルに片手をついた。

 神経回路をつなぎ合わせるという、かなり繊細な作業をしていたので、疲労もだいぶ溜まっていることだろう。

 悪魔・メフィストフェレスがレオーネに聞いた。


「このまま城那皐くんを連れて行くのかね? レオーネ」

「ああ。まだ意識が戻っていなくても、連れて行くつもりだよ。ロメオのほうも何十人と戦って、これ以上引き延ばすのは難しくなっているんだ」

「試合前にも少しは話しておきたかったんだが……目を覚ましてくれないものだろうか」


 メフィストフェレスはサツキに声をかける。


「城那皐くん」

「意識の覚醒は、サツキ次第なんですよね」


 ルカが聞くと、メフィストフェレスが「ああ」と答えた。


「だから、名残惜しいが彼を連れて行くのがいい。またおいで。そうしたら、存分に話し合おうじゃないか」


 と、メフィストフェレスはサツキに言った。

 レオーネはカードを一枚手に持ち、魔法を唱える。


「その服ではかっこうがつかないからね。これはオレからの餞別だ。みんなのところに戻る前に、直しておこう。《パッチ・アダムス》」


 すると、サツキの服が一瞬にして元に戻った。切れていた部分も直っているし、ルカに脱がせてもらったものも着用している状態になる。


「すごい……」


 ルカの声に、レオーネは片目を閉じて爽やかに微笑む。


「これくらいなんてことないさ。じゃあ、戻ろうか」

「はい」


 ルカはファウスティーノとメフィストフェレスにお礼を述べる。


「サツキのこと、ありがとうございました。勉強になりました」

「いやいや。ボクもキミと話せたことに感謝している。ファウスティーノも助かったよと言っているよ」

「まだ言っていないのだ。しかし、サポートは助かった。またいつでも来るといいのだ」

「はい」

「ひとまずはコロッセオに戻るが、サツキくんのことはまた試合後に連れてくるよ。ファウスティーノ」


 とレオーネが言って、ルカが小さく会釈した。レオーネが「《出没自在ワールドトリップ》、リラ」と唱え、二人はコロッセオに戻った。

 モルグに残ったのは、ファウスティーノとメフィストフェレス。

 意味深な冷笑を浮かべているメフィストフェレスを一瞥し、ファウスティーノは医療道具を整備しながらつぶやいた。


「なにがおかしいのか」

「聞きたいかい? ファウスティーノ」

「悪いが、聞きたくなどないのだ」

「まあ、そうだろうねえ。ファウスティーノならば、そう言うだろうと思っていたよ。しかし、あとで話させてもらおうかな」

「そうか。期待しないでおく」


 メフィストフェレスはひとりごちる。


「ああ、城那皐くん。彼はどんな試合をするだろう。事後報告を楽しみに待つとしよう」




 レオーネとルカはサツキを連れて、《出没自在ワールドトリップ》でワープしてコロッセオに戻ってきた。

 場所は一階席、リラの隣である。

 この魔法の持ち主、妹のルーチェが登録しているポイントにリラがあり、ほかのだれかの隣を登録してワープしてくるより都合がよかった。

 なぜなら、ロメオは舞台脇の特別席にいるため、観客たちの目にさらされるからだ。

 リラは三人の姿を見て、


「おかえりなさい。サツキ様は大丈夫ですか?」


 と聞いた。


「治療は終わったようだ。ごらんの通りさ。腕もつながった」

「しかし、意識だけは自分で覚醒させなければならないわ」


 レオーネとルカの言葉を聞き、リラは口を押さえて眉を下げる。


「意識の回復がまだなのですか」

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