126 『サプライズカワード』
魔法《バンテージ・ポイント》の性質を見抜き、ロメオは左手の拳をほどかせ拘束を解除させた。
それに関して、クルメンティスは嘲るように言った。
「でも、ラッキーだったな! ぼくの左手がたまたまおまえの顔面に向かった。そのおかげで、運良く解除できたんだからな」
「自分で繰り出した拳の軌道がわかっていなかったのですか?」
「き、軌道? なんの話だ!」
「ワタシはあなたが左手をワタシの顔に近づけるのを待っていました。あなたによって固定されていないのは首から上と足首だけだから、頭突きでヒットさせるために」
「狙っていたとでもいうのか?」
「ええ。当然です。あなたが殴りかかってきたタイミングに合わせ、足首の動きだけで可能なわずかな移動をしました。それによって、頭突きの位置と左の拳の位置が重なるよう調整したのです」
「つまり、あのときおまえがちょっとだけ動いたように見えたあれは、本当に動いて、あまつさえ調整までしていたということだったのか!」
「あなたの《バンテージ・ポイント》は丸裸になった。さあ、どうします?」
「終わりだあああ! 全部、バレてしまったああ! ああああ!」
取り乱したクルメンティスは、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「なんと見事な観察と推理なんだ、ロメオ選手! コロッセオ最強の『バトルマスター』は、いつでも冷静にクレバーだ!」
クルメンティスの処置をどうすべきか、ロメオが考えていると。
急に、クルメンティスが地面に手をついて謝罪を始めた。
「すみませんでしたー!」
「?」
ロメオが疑問に思うほど、クルメンティスは大きな声で謝る。
「ボクみたいな魔法戦士でもないちっぽけな人間が、いきなり『バトルマスター』のロメオさんに挑戦するべきじゃなかったんです! もしかしたら良い勝負ができるんじゃないか? ひょっとすると勝てちゃったりするかも? とか思ったのが間違いだったんですー!」
「……いえ。挑戦する権利は、だれにもあったのです。謝ることなどありませんよ」
紳士的なロメオの対応にも、まだクルメンティスは頭を地面につけるようにして謝り続ける。
「どうかお許しを! この通りですからー!」
「もちろんです」
チラッと、クルメンティスがロメオを見上げる。
「また、こんなボクと戦ってくれますか?」
「はい。ぜひ、戦いましょう」
そうして、クルメンティスが「ありがとうございます、ありがとうございます!」と頭を下げてお礼を言い続ける。
この場も収まったということで、ロメオはクルメンティスに背を向けて歩き出す。また元の位置につくためだ。
しかし、まだ試合は終わっていなかった。
「さすがはロメオ選手! 『バトルマスター』は強いだけじゃなーい! クルメンティス選手の暴言を許し、また戦う約束をしました!」
クロノがしゃべっている間に、クルメンティスが動き出していた。ロメオの背中に向かって突っ込んで行く。しかも、手にはナイフが握られていた。
――まんまと隙を見せてくれたな、ロメオさんよー!
この様子に気づき、クロノが声を上げようとしたとき、クルメンティスのナイフはすでにロメオの背中に届くまで30センチを切っていた。
「くら――」
が。
クルメンティスが「くらえ」と言おうとした瞬間、ロメオはクルメンティスの顔面に裏拳を叩き込んだ。
「ぶふぃぉっお!」
クルメンティスは歪んだ顔のまま倒れて伸びてしまう。
「なんて卑怯なんだクルメンティス選手! 謝って油断させてから、後ろからナイフで刺そうとしていました! しかし、ロメオ選手は気配を察して裏拳を叩き込んだー! 無事、クルメンティス選手は伸びきって戦闘不能となり失格! ロメオ選手の勝利です! 意外性のある試合に、最初のチャレンジャーからドキドキさせられっぱなしでしたが、『バトルマスター』の強さが光りました! さあ! 続く挑戦者はだれだー!?」
すると、舞台に大男があがってきた。
「おおー! 出てきたぞー! 次の挑戦者は、コロッセオの魔法戦士です! まだ参加から四戦で、三勝しているチュス選手だー!」
大男のチュスは、クロノが持っている貝殻を横から手に持ってしゃべる。
「オレは苛ついてんだぜ! つまんねえ試合ばっか見せられてよ! だから! このレベルの低い大会を、今からオレが盛り上げてやるぜ! てめえを一ひねりにしてやるから覚悟しろ! ロメオ!」
ロメオを指差すチュス。
「さあ、今度はどんな試合を見せてくれるのでしょうか! それでは、ここからはどんどんまいりましょう! チュス選手対ロメオ選手の試合を始めます! レディ、ファイト!」
かくして、ロメオによるショータイムが始まったのだった。
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