122 『スモールチャレンジャー』
舞台には一人の青年がのぼっていった。
小柄な青年で、身長は一六三センチほどだろうか。年も二十歳にもならないと思われる。緊張した様子でぺこぺこしながら舞台に立った。
さっそく『司会者』クロノが声を上げた。
「最初の挑戦者が登場しました! ワタシの記憶が正しければ、コロッセオの魔法戦士ではないようですね! お名前をうかがってもよろしいでしょうか」
水球貝と呼ばれる丸い貝を、クロノは青年に向けた。クロノはこの貝殻を媒介として音を会場中に響かせる魔法《アリア・フォルテ》を使えるのだ。
「ぼぼ、ぼ、ぼくは、
「ちょっと噛んじゃったけど、大丈夫かー!?」
クロノがそう言うと、観客たちはおかしそうに笑った。
「だっはっは。なんだあれはよ?」
「あんなのがロメオさんと戦うのか」
「だったらおれが戦えばよかったな。まだマシなバトルできるかもだし」
「な、なら、あたしが闘魂注入を……ぐふふぅ」
「もうっ、だからあんたのそれは迷惑だってのよ」
会場を静めるように、クロノが言った。
「さあ、ロメオ選手からもなにかひと言ありますか」
「よろしくお願います」
丁寧なロメオの挨拶に、クルメンティスは目を輝かせてロメオの元へと駆け寄って行く。
「うああ! ほ、本物のロメオ選手だ! あ、あの、おこがましいとは思いますが、もしぼくがこの試合に勝てたら、ぼくも『バトルマスター』を名乗ってもよろしいでしょうか!」
ロメオはくすりと笑った。
「ええ。構いませんよ。ここからの時間、ワタシに勝てた方に『バトルマスター』の座もお譲りします」
これを受けて、真っ先にクロノが叫ぶ。
「なんということだー! ロメオ選手、『バトルマスター』の称号さえも譲るとおっしゃいました! チャレンジャーが止まらないことになりそうですが、頃合いを見て、この『司会者』クロノが打ち切る場合があることを皆様もご了承ください! あくまで決勝までのショータイムですからね!」
当のクルメンティスも、深々と何度も頭を下げた。
「ありがとうございます! ありがとうございます! 器も大きいんですね! あ、あの、ロメオ選手、握手してもらってもいいですか?」
「はい。もちろんです」
ロメオが手を前に出すと、クルメンティスはその手を握った。
「や、やったー! ありがとうございます! すごいですね、手もがっしりしてる! お、おぉ! 腕の筋肉もすごい! いやあ、すごいですよ本当に! 太もももカッチカチだよ!」
ベタベタとロメオの身体を触るクルメンティスに、クロノは苦笑いを浮かべる。
「感動するのはしょうがないけど、今は試合前だから落ち着いてくださいね。ささ、離れて。試合を始めますよ」
クルメンティスとロメオの間に手を入れて、二人を離すと、クロノは試合の開始を告げる。
「それでは、クルメンティス選手対ロメオ選手の試合を始めます! レディ、ファイト!」
試合が開始された。
しかし、どちらも動かない。
ロメオは立ち尽くし、クルメンティスは左の拳をぎゅっと握り、右手で左手を覆うようにする。
「おーっと? ロメオ選手もクルメンティス選手も、お互い動きを見せません! 相手の手の内を探っているのかー!?」
先に口を開いたのはクルメンティスだった。
「ロメオ選手、間近で見てもかっこよかったです! 鍛え上げられた筋肉、紳士的な佇まい! 『バトルマスター』ってステキですね! 本当にいいですよ、『バトルマスター』って称号は」
少しクルメンティスの雰囲気が変わったように感じて、クロノが声を漏らす。
「なんの話をしているのでしょうか? もう試合は始まっていますよ」
クルメンティスはニヤリとして、ロメオに言った。
「ねえ、ロメオさん。さっきの話さぁ。あれ、嘘じゃねえんだよな? ぼくに『バトルマスター』の座を明け渡してくれるって話だよ」
急にしゃべり方も変わって、クロノは呆けたように実況する。
「な、なんだ!? クルメンティス選手の様子がおかしいぞ!? 急にどうしてしまったんだこの人はー!?」
かったるそうにクルメンティスは嘆息する。
「どうもしてねえよ。作戦が完了したから、あとは対話してやってるだけだってぇの。『バトルマスター』をくれるって話が本当か、最終確認してるわけ。で、どうなんだ? ロメオさん。いくらぼくの《バンテージ・ポイント》が発動して動けなくなっちまったからって、今更さっきの話はナシなんて言わねえよなアッ!?」
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