118 『コンディショナルハンド』
『
メフィストフェレスはサツキを見て、口を大きくゆがませた。うれしそうに口角が上がったのである。
「ああ、なんと愉快なことだ! まさかこんな存在に出会えるとは!」
感嘆の声を出してサツキの顔を覗き込む。歓喜と愉楽の色を瞳に映し、ファウスティーノに聞いた。
「彼はだれかね?」
「
「士衛組。ほほう、なるほどなるほど。聞いたことがあったね、ファウスティーノ。数日前にキミと話した時点で、『
「それで、なにが愉快なのだ? メフィストフェレス」
「ボクにはわかるのだがね、彼はこの世界の人間ではないよ。ファウスティーノ」
「……それは本当か?」
懐疑の目を向けるファウスティーノ。
だが、これにはメフィストフェレスではなくミナトが答える。
「ええ。本当ですよ。この方のおっしゃる通りだ。サツキはクコさんによって別の世界から召喚されたらしい。僕はそう聞いていますぜ」
「素晴らしい! やはりそうか!」
欣然と腕を広げるメフィストフェレスに対して、ファウスティーノは唖然としていた。まさかそんなことが現実にあるのかと驚いている。
「であるならば、ボクは城那皐くんに聞きたいことが山ほどある。彼と話すだけでボクがこれから持て余す退屈は、想像の翼を羽ばたかせる無限の空となることだろう!」
「それはよかったですねえ」
「ああ。ありがとう」
と、メフィストフェレスがミナトに手を差し出して握手をかわす。
「そして、言わずともわかっていると思うが、ボクは彼を助けることに手を貸そう。この程度の怪我なら明日にはすっかり元通りにできる。それまでゆっくり話でもしようじゃないか。楽しみだなあ」
「いいえ、メフィストフェレスさん。そんな時間の余裕はないんです」
ミナトの言葉に、メフィストフェレスは首をかしげた。
「どういうことだね?
「僕たちにはこのあと、試合があるんです」
「スコットと戦ったのに『ゴールデンバディーズ杯』は終わっていないとは、驚いたね」
「あの方との戦いは準決勝でしたので」
「決勝は二時からだ。それをリディオたちが手を打ち、少し開始時間を延ばすようなのだ」
と、ファウスティーノが告げる。
「本気でそれまでに治療する気かい? ファウスティーノ。であれば、キミは自分の医師としての腕を見誤っていると気づいたほうがいい。むしろ、医師としての患者を診る目がおかしくなってしまったと思うがいい。どんなに急いでボクが力を尽くしても、早くて夕方……いや三時過ぎではないかな?」
「私もそれはわかっているのだ。しかし、レオーネとロメオの頼みなら可能な限り聞いてやらねばならん。そして、不可能でも叶えてやるのが私の役目だと思うのだ」
「…………少しばかり、熟考してみたよ。わずか十秒ほどだが、存分に吟味させてもらったし、ボクの考えもまとまった。いいだろう。ボクも普段はやらないような努力をしてやろう。ただし、条件がある」
「条件? メフィストフェレス、おまえは私に使役される存在。つまり私の命令は絶対なのだ」
ファウスティーノの反論にも薄く微笑を返すのみで、メフィストフェレスはミナトとルカに顔を向けた。
「試合後、城那皐と語らいたい。ボクには彼に聞きたいことがごまんとある。何時間あっても足りないだろう。しかし、たったの数時間でもいい。試合後に話す機会を作ってくれるかい?」
「僕は構いません。サツキ本人の返答次第ですが、サツキもいいと言うんじゃないかなァ」
「私も、飲めない条件ではないと思っています」
ニコリとして、メフィストフェレスは手を合わせた。
「よし決まりだ。城那皐くんは無理するタイプのようだからね、どうせ決勝でも怪我してここにくることになる。そこでしばらく彼と話をしよう。ああ、楽しみだ! おもしろくなるね」
クツクツ笑うメフィストフェレスに、ルカは怪訝そうに尋ねた。
「あの」
「なんだい?
「条件はそれだけですか」
「ボクは悪魔だからね。ボクを信頼できない気持ちはわかる、とだけ言っておこう」
すかさず、ファウスティーノが言葉を挟む。
「大丈夫なのだ。メフィストフェレスはあくまで私に使役される存在に過ぎず、私の命令は遵守する上、約束は守る」
信頼はしきれないが、ファウスティーノの言葉は素直に受け取る。それしか今のルカにはできない。
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