103 『パーフェクトプラン』

 ミナトの魔法を、半透明化できるものだと導き出したカーメロ。

 見えるけど、身体が透けて物体を透過してしまう状態にする魔法。

 そう判断した。

 正確には、魔法名を《すり抜け》といって、人体以外の物質をすり抜けることができるのだが、カーメロからすれば名称はなんでもいい。

 カーメロにとって大事なのは、半透明化した場合の精度であり、どんな物を透かせるかという対象だった。


 ――厄介だ! が、物質は半透明化して通り抜けようと、人体もその限りである保証はない。おそらく、ヤツは他者の肉体を透かすことはできない。なぜなら、ボクは試していたからだ。


 ハルバードと刀のぶつかり合いを演じながら、カーメロはナイフを使ってミナトを翻弄するバトルスタイルを見せてきた。

 その中で、カーメロはミナトの魔法を予想し、可能性を二つに絞った。

 残像を作るものか、半透明化できるものか。この二つだ。

 もし残像ならば、攻撃を当てるのは物理的に可能。しかし、半透明化だと不可能かもしれない。


 ――この試合、ミナトくんは傷を一つも負っていない。それが半透明化の魔法による場合、ハルバードやナイフは通じない。ただ、人体がそうとは限らない。ボクが戦ってきた相手の中には、他者の肉体には効果を発揮できない魔法も多くあった。たとえば、物を液状にするとか、物の重さを変えるとかだ。スコットさんのように、他者の肉体さえ硬くできるものもあるが、ミナトくんの半透明化がどうかは微妙だと思われる。もし完全に、難しい発動条件もなくそれができたら、無敵過ぎるからだ。よって、ボクはミナトくんに触れることができるかを何度か試していた。


 一度目は、《スタンド・バイ・ミー》でミナトとスコットの位置を入れ替えたとき。

 二度目は、戦闘中に羽織の端を触ってみたとき。

 どちらの場合も触れた。特に、二度目の接触は残像を作ったかと思うほどギリギリの回避をしたときであり、半透明化が発動していたタイミングだと考えていい。


 ――結果、ミナトくんは他者の肉体を透かすことはできないと確定した。また、ミナトくんがまとっている衣服や武器も他者の肉体を透かすことができない。もし半透明化の効果が自分の肉体だけであり、身につけている衣服にはその効果がないとすれば、服だけがいくつもの切り傷を受けているからだ。したがって、ボクの最終作戦はパーフェクト! 仕上げの工程に、変更はない!


 これほどまでにカーメロが分析してみせたミナトの魔法も、観客席からはよく見えない。ナイフが当たらなかったと思われるだけで、クロノがかろうじて見ることができた程度だ。


 ――今のは、なんだ? 当たったのに、当たらなかった?


 クロノもそんなふうに疑問に思ったが、時間は刻一刻と流れてゆく。彼に分析と実況をするヒマはない。

 カーメロは手元に戻った一本目のナイフをまた手に持ち、即座に投げた。今度はまた細い針も投げる。

 ミナトが剣を振るうと、ナイフが払われる。


 ――ナイフはダミー。《スタンド・バイ・ミー》の対象じゃない。本命は針だ。この針が《スタンド・バイ・ミー》の対象だが、ナイフに隠れて見逃してくれるか?


 この間に、カーメロは新たな針を左手にすべり込ませる。さらに、その針を左手の中で、ミナトにも見えないよう、まるで手品師がマジックのタネを仕込むみたいに器用に指の腹で押し出し、《スタンド・バイ・ミー》を発動させた。こちらの針は二つ目の対象に指定されたのである。


 ――これならどうだ!


 針はミナトの横を素通りする軌道を描き、そのまま直進していたが、《スタンド・バイ・ミー》で針は入れ替わり、軌道を変えてミナトの首へと向かった。


 ――うまい。


 と、ミナトは思った。

 ミナトは、普通では視認するのも難しい針をしっかり目で捉えていた。《スタンド・バイ・ミー》で入れ替わり進行方向まで変わったその針を、絶妙な重心移動だけでよけてみせた。

 これに合わせて、カーメロはハルバードをぐるりと回してミナトと距離を取った。


 ――驚いた。あの針までかわせるのか。見えただけで拍手を送れるほどだが、あんなに紙一重でよけるのは尋常じゃない。やはり天才だな、彼は。ボクにその魔法の正体を完全にはつかませない技術。とてつもない空間把握能力を持っている! もし半透明化のような魔法だとしても、あえて針をよけることで、かなり効果的に、かつ手の内を見せないよう動けている! 凄まじい!


 そう思いながら、今度はまたミナトに向かって駆け出し、左手にナイフを構え、ハルバードで突く。


「カーメロ選手、間髪入れずに突っ込んだー!」


 これにミナトも剣で切り返そうとしたが、なんと、ハルバードはそのまま投げられたのだった。

 普通、カーメロがあの万能の武器・ハルバードを投げるとは思わないだろう。左手のナイフに注意が向くはずだ。しかも、走る勢いと合わせて、スピードはかなり出ている。常人ならばよけることなどできない。


「へえ。これでフィニッシュを決めるつもりですね」


 愛用の武器であるハルバードを手放すことは、このあと長い攻防をするつもりがないことを意味するからだ。


「なんと! カーメロ選手が、ハルバードを投げたあああ! ミナト選手に向かって一直線だああああ!」

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