102 『アナリシスリザルト』

 ミナトは飄々と言った。


「結構なことじゃァありませんか。最強を目指すなら、最後に倒すべき相手は強ければ強いほどいい。ただ、今は自分に怒り自分と戦うときじゃない。僕に勝つつもりならね」

「ああ。そうだったね、キミは強い。あなどっていい相手じゃないのに、ボクは気が散っていたようだ」


 カーメロは前髪をかきあげる。


 ――ロメオ。キミから名前を取り戻す。今年こそ、この『ゴールデンバディーズ杯』で。まずはダブルバトルでだ。そしてシングルバトルでも制し、ダブルバトルと両方で彼を下して、ボクが『戦闘の天才』に返り咲く。


 だが、カーメロが見ているのはロメオではない。打倒ロメオだけを考えているわけではないのだ。


 ――そのために、ボクはボクに打ち勝ち、強くならねばならない。過去と今の自分と戦い、強くなり続けねばならない。ミナトくんは強い。おかげで、ロメオと戦う前に、いい経験ができたよ。ボクはさらに強くなったのだからね。


 チラとサツキを見る。


 ――やはり彼は動きがない。この二対一が始まって、もう二分が経つ。彼はほとんど動けまい。目が見えているかも怪しい。ロメオからグローブを授かり、ロメオと重なる彼には、どうしても勝たなければならないと思った。だが彼は終わった。ボクの勝ちだ。


 ロメオとのつながりから、サツキには闘争心がかき立てられて、勝ちに対する強い感情で容赦なく戦った。自分に打ち勝つために、ロメオに勝つために、必ず倒すべき相手だと思ったからだ。だが、そのサツキもよく戦ったとはいえ、もう意識する必要もない存在となった。サツキが倒れるのも時間の問題になったからだ。


 ――あとはミナトくん一人。最後の戦いを始めよう。


 左手をハルバードから離す。


「幸い、スコットさんのおかげで左腕の傷はそれほど大きくない」


 そう言って、カーメロはナイフを二本、左手に持った。


「いくよ」

「ええ、やりましょう」


 ミナトとカーメロが互いに駆け出す。


「さあ! ミナト選手とカーメロ選手、最強の座を目指す二人がぶつかり合う! もう何度目だろうか! しかし、終わりの時は近づいている! カーメロ選手が左手にナイフを持ったことで、いつ《スタンド・バイ・ミー》が発動するかもわからない緊張感に、ミナト選手はどう攻める!? 今、両者がぶつかったー!」


 最初に仕掛けたのは、カーメロだった。

 ハルバードを巧みに扱って攻撃しながら、一本目のナイフを横回転をかけて手から離し、二本目のナイフを投げる。

 かなり至近距離での投擲だが、ミナトはまたもや紙一重によけてみせる。

 しかし、このタイミングで《スタンド・バイ・ミー》が発動し、ミナトが避けたナイフは別のナイフと入れ替わり、軌道を変えてミナトを襲う。


 ――なるほど。左手に持った二本のうち、一本を左手から離す。このとき、ナイフは横回転させる。続いて、もう一本を僕に投げる。僕が避けた瞬間、一本目の回転するナイフを左手で迎えに行ってこの二本の位置を入れ替えたのか。


《スタンド・バイ・ミー》を発動するタイミングは、二つ目のナイフを放つ瞬間になる。

 一つ目の《スタンド・バイ・ミー》の対象となったナイフがミナトに飛ぶ。

 二つ目の《スタンド・バイ・ミー》の対象は、まだ決まっていない。

 そこで、最初に手放したナイフを二つ目の対象にする。この宙で回転しているナイフに、カーメロは左手を当てに行ったのである。

 ミナトがよけた瞬間だから、まだミナトの脇にナイフがあり、それを向きまで調整して回転している別のナイフが突如現れるのだから、必中になるという計算だ。

 しかし、ミナトにナイフは当たらなかった。


 ――当たらない!? いや、ナイフはそこにある! なぜだ! 透けている、のか? 残像ではなく、半透明化できる魔法! それがヤツの隠し球だったわけか!


 それもほんの一秒とない時間の観察であり、なにかの見間違いかと思うのが普通だろう。この短い時間に、カーメロはミナトの《すり抜け》を見破ったのだった。

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