100 『マジックリーズニング』

 カーメロは、ミナトの魔法について考察していた。


 ――当たったかに見える攻撃が外れている現象。これを説明する魔法は、いくつか思いつく。ただ、今回観察したところで可能性が高いのは、残像。


 ミナトは、残像を作る魔法を持っている可能性がある。そう予測した。


 ――もし、残像でないなら……考えたくはないが、最悪のケースが想定される。それは、半透明化。見えるが、当たらない状態。この場合、まず針やナイフ、ハルバードなどの物質は完全無効化。望みがあるなら、他者の肉体のみ接触可能、とかだろうか。これも考慮して戦うべきかもしれないな。


 他者の肉体のみ接触可能という条件を考えたのは、カーメロのこれまでの戦闘経験による。魔力の影響か、他者の肉体に対してのみ効果を働かせることができない魔法は多いのだ。


 ――まったくもって、これほどの魔法をこれほどの完成度で使いこなす空間把握能力と戦闘センスは脅威だ。それをこの年でやるんだからな。いずれにしても厄介な相手だぜ。


 とかく、最悪のケースでなくとも、残像によってさっきから攻撃をかわしているとしたら非常に厄介だ。だが、もっと攻撃精度を上げれば対応できるともいえる。半透明化と違い、残像を見極めれば武器を当てることができるのだから。


 ――もうボクの左手はパーフェクトなコントロールができない。だから右手だけでハルバードを使っていた。だが、やつの剣が調子を上げてきているのなら、四の五の言っていられない。


 カーメロは、ずっと右手だけでハルバードを振り回していたが、両手持ちのスタイルへと変える。左手でハルバードを支えて右手の補助に回る形だ。

 両手が塞がり《スタンド・バイ・ミー》を繰り出しにくくなったが、やむを得ない。


 ――こうでもしないと、遅れを取る。


 大きく重たいハルバードを右手だけで扱うのと両手で扱うのでは、雲泥の差がある。

 キレの増したミナトの剣に、これで速さでも追いつくようになった。


「ミナト選手が斬ったのは、カーメロ選手の左腕だった! 《そら》によって受けたダメージと合わさり、カーメロ選手は左手を自由に使うのが厳しくなってきたか!? だが、その代わりにハルバードを両手で持つスタイルに切り替え、ミナト選手の剣とスピードで互角、パワーで勝るかに思える! しかしミナト選手もどこにそんなパワーがあるのか、振り落とされたハルバードを平気で弾く! さあ、どちらが次に技を決めるんだ!?」


 ここで、ふと観客の声がカーメロの耳に入る。


「カーメロ頑張れよ! 『戦闘の天才』の意地を見せてやれー! よっ、元祖『戦闘の天才』!」


 その声に、カーメロは腸が煮えくりかえる思いでミナトに突きを繰り出した。


「くあああ!」

「熱くなるのはいいが、一人の世界に入ってもらっちゃァ困りますぜ。僕と戦っているんですから」


 サッと、横に一閃。

 ハルバードの突きを紙一重によけて、ミナトは水平に剣を振った。

 剣はカーメロの腹にまで達するが、傷は浅い。服が切れて、血も少し出るだけで済んだ。


「それとも、だれか別の人と戦っているつもりですかい?」


 カーメロはうつむき加減にぽつりと返す。


「ボクは彼と戦っているつもりはない」

「彼……?」


 首をひねるミナトを気にせず、カーメロは言葉を続ける。


「だが、言われてみればキミのことを一瞬見失っていたか」

「一瞬だけならまだいいが、割とすぐに自分の世界に入ってしまうように見えます。僕への集中が途切れる時がしばしばです」


 しかしやはり、ミナトの声は聞こえていないみたいにカーメロは言う。


「ボクはボクへの怒りにどうしようもなくなるんだ。ロメオに恨みなどない。ただ、ボクがボクを許せないだけなのさ。パーフェクトじゃないボクを、どうしようもなく許せない」

「……」


 謎の言葉の数々に、ミナトはさらに首をかしげたくなった。一人語りが続くのかと思って待っていると、カーメロはただ一言つぶやいた。


「本当の意味で、その名前を取り戻さないといけいない。そして初めてパーフェクトになれる。そうだろ、ボク」

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