85 『ファーストダメージ』

 ここから、『破壊神』スコットが一人で大暴れすることになる。

 それをサポートするのは、もちろんカーメロだ。

 戦闘センス抜群のカーメロが的確にサツキとミナトの弱点を突く。つまり、手負いでこの作戦の要となるサツキを妨害する。サツキがスコットに近づき、手を伸ばそうとしたところへ、カーメロの暗器が飛んでくるのである。


 ――やっぱり俺を狙ってきた。


 サツキは《透過フィルター》を利用した360度視認する能力、《全景観パノラマ》でそれを把握した。

 暗器は、ミナトの斬撃《そら》で弾かれる。《そら》はミナトが剣で飛ばした空気の刃である。


 ――だが、俺にはミナトがいる。だから俺は、スコットさんに集中する!


 本当なら、カーメロがいない状態でスコットを二人いっしょに攻めるだけでも大変だとサツキは思っていた。『破壊神』が思い切り暴れる場面をサツキとミナトは見たことがなく、どんな動きをしてくるかわからない。

 その実態は、精確にサツキとミナトを攻撃してくる。無差別にすべてを破壊するイメージだったが、サツキが近づくとそれをうまく阻んでくる。だが、ミナトの《そら》がサツキに活路を作る。

 サツキがスコットの鎧に拳を打ち込む。


「はあああ!」


 それに合わせて、ミナトが三度の斬撃《そら》を放つ。二つの《そら》がスコットのバトルアックスの軌道をずらしてサツキとミナトを攻撃するのを遅らせ、残る一つの《そら》はカーメロの暗器が攻撃態勢のサツキに飛んでいったのを弾く。

 そうして、サツキの拳は鎧に入り、ミナトの刀は横に一閃、スコットの鎧に傷をつけた。


「サツキ選手とミナト選手の波状攻撃が始まったー! カーメロ選手がサツキ選手に暗器の隠しナイフを投げる! だが、それをミナト選手が斬撃《そら》で邪魔を許さず、さらにはバトルアックスにも《そら》が飛んだと思われます! こうしてできた道をサツキ選手が一直線に進み、ついにスコット選手に正拳突きをお見舞いした! そして、ミナト選手もサツキ選手の《打ち消す手套マジックグローブ》が鎧に触れ《ダイ・ハード》が解除された瞬間に、高速の抜き打ちを放ち……ついについに! あのスコット選手の無敵の鎧に傷がついたー! まるで龍が爪で引き裂いたような、深さ三センチはある傷痕ができているぞー!」


 今大会、スコットとカーメロはまだ二戦目だ。

 しかし彼らは、この大会に出場するまでに、彼らの打倒目標であるレオーネとロメオ以外に負けたことはない。同時に、スコットの鎧が傷ついたこともなかった。

 その鎧にヒビが入ったのを見て、観客たちは沸きに沸いた。


「うおおおお! あいつらスコットに一発入れたぞ!」

「すげー! 『神速の剣』が魅せてくれたぜ! ミナトー!」

「これはひょっとしてひょっとするのか!? マジかよ、おい!」

「サツキくんミナトくん、頑張ってー!」

「スコットも負けんなよー! 全部ぶっ壊せー!」

「カーメロさーん!」


 サツキとミナトを応援する声も増え、スコットとカーメロを応援する声も当然あって、会場は熱気に包まれた。

 また少し距離を取り、サツキとミナトは顔を見合わせる。


「いけそうだな」

「だね」

「ここから連続でいく」

「了解」


 再び、サツキとミナトによる攻撃が開始された。さっきと同じように、ミナトがサツキの行く先をクリアにしてくれるから、サツキはスコットの攻撃を見切って近づき、拳を打ち込む。あるいは掌底を繰り出した。

 スコットの鎧に触れることで鎧の《ダイ・ハード》が解除されるが、あくまで触れたのは鎧のみであり、スコットの肉体は解除の適用範囲外だ。つまり、ミナトが狙うのはスコットの鎧のみになる。

 ミナトが完璧にサツキの動きに合わせて剣を振るって、スコットの鎧には二つ、三つ、四つと傷が増えてゆく。目に見える傷の深さだが、ミナトの剣は硬化されていないようだし、スコットの身体にまでは剣が届いていないと思われる。


 ――なかなか倒れない。まだまだ硬いぞ。


 傷が増えても鎧はまだ破壊しきれない。


 ――鎧が破壊できれば、次はスコットさんの身体に直接この拳を叩き込んで、肉体にかけられている《ダイ・ハード》も解除する。そうすれば、ミナトの剣なら一度か二度の攻撃でスコットさんを戦闘不能にできるはず。あと少しだ。


 だが、スコットの鎧がまだ壊れないのには、スコットのうまさがある。スコットは攻撃を受けても、ダメージが小さくなるよう身体の向きを変えたり身体を引いたりしているのだ。

 サツキの《緋色ノ魔眼》はそれを捉えていた。

 また、ミナトも体感でわかっていた。


 ――スコットさん、上手だなァ。ダメージをうまいこと抑えてる。サツキの出血量も増えてるし、早めに決めたいのに。


 ふと、ミナトがカーメロのナイフを弾いたとき、嫌な予感を覚えた。この理由を考える間もなく、事が起こった。

 ナイフが弾かれた瞬間、そのナイフが消え、別のナイフが現れてサツキに飛んだのだった。

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