86 『トルネードスラッシュ』

 これまで、カーメロのナイフはサツキを狙って放たれたが、ミナトの斬撃《そら》に弾かれてきた。

 しかしそのたび、ナイフは《スタンド・バイ・ミー》によってカーメロが隠し持っていた小石やカードと位置を入れ替えられ、回収されてきた。


 ――カーメロさんは、《スタンド・バイ・ミー》でナイフと小石を入れ替え、ナイフを回収してきた。いくらカーメロさんでも無限にナイフなどの暗器を仕込むのは難しいのでそうしているのだと僕は思っていた。けれども、そうじゃなかった。僕を欺くためだったのか。


 ミナトが《そら》でナイフを弾いた瞬間、ナイフは別のナイフと入れ替えらえ、サツキに向かって飛んでいるのである。

 それは、ミナトの知らない戦法による不意打ちだった。

 カーメロはサツキとの戦いでしてみせたように、ナイフを左手に突き刺して、進行方向を調整した。

 結果、弾かれたナイフが別のナイフに入れ替わって軌道まで変わり、まるで生き物のようにサツキを狙い続けるのだった。


 ――意思を持った生き物みたいだ。サツキを助けないと。


 ミナトはそう思ったときには《そら》を繰り出してサツキへの第二攻撃を弾き、スコットのバトルアックスにも注意を向ける。

 だが、そこでまたさらにミナトはカーメロに驚かされる。


 ――まだ来るか。


 ミナト自身へのナイフが一本、サツキへのナイフが二本、狙いのわからないナイフが二本飛び出すところだった。


 ――計五本。これをたったの一瞬で投げられる技術もすごいが、怪我のせいかサツキの動きが鈍ったその隙を見逃さない観察眼もすごい。


 二対一ではなく、やはりこの戦いは二対二でしかない。それを実感する。


 ――ここでサツキがこれ以上の怪我を負ったら、僕ひとりで二人を相手にするのはかなり厳しいだろう。やるしかない。


 そう判断すると、ミナトは《瞬間移動》でサツキとカーメロを結ぶ中間地点、それもカーメロにより近い位置に移動して、剣を振った。


「《そら》」


 竜巻が起こる。

 サツキとスコットはギリギリで竜巻の範囲外だが、カーメロは違う。

 すべてのナイフが上空に巻き上げられ、カーメロの服も一部切れて、次に備えていたナイフも取りこぼし、風圧から身を守ろうとした左腕には大きな切り傷ができていた。


「なんだと!」


 スパッと斬れた左腕に、カーメロは声をあげた。

 クロノの実況が挟まる。


「ミナト選手が竜巻を起こしたー! ものすごい攻防でしたが、最後は《そら》という名の竜巻が場を支配します! カーメロ選手によるナイフが全部舞い上がり、カーメロ選手は左腕を負傷! サツキ選手とスコット選手の戦いはどうなるー!?」


 カーメロの顔が歪むのを見ながら、ミナトは《そら》を決めた体勢からシームレスに後ろにサッと剣を伸ばすように空を斬った。


「《そら》」


 スコットのバトルアックスの軌道がほんの少しだけズレる。


 ――足りなかったか。さすが『破壊神』、すごいパワーだ。


 まだサツキに大怪我をさせる軌道にあるバトルアックスを、サツキはかいくぐろうとしている。

 だが、バトルアックスはサツキの左腕に当たってしまった。

 そして、サツキの左腕は、《ダイ・ハード》によって硬化させられてしまった。それでも、サツキは拳を鎧に突き出す。スコットはこの好機に、またバトルアックスを振り回して攻撃を受ける覚悟でサツキを狙った。


 ――『神速の剣』がまたオレを斬るには、遠すぎる。まずは、城那皐を倒すのが優先だ!


 スコットは、硬化したサツキの左腕にバトルアックスを振るった。


「この好機を逃すオレではない!」

「……ッ!」


 サツキの拳はスコットの鎧に届く。

 しかし、硬化された左腕は、バトルアックスによって砕かれてしまった。

 ミナトの助けは間に合わなかった。

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