81 『ブレイクソード』

 スコットは、自分の肉体と鎧、さらには武器・バトルアックスに触れるものならば、《ダイ・ハード》の効果を付与できる。

 すなわち、触れたものを硬くできるのである。

 あまりに硬すぎるものは、逆に衝撃耐性が減って、かえって壊れやすくなる。それを利用して、破壊するのだ。


「おーっと! ミナト選手、突っ込んだ! 特殊な剣技、《くうざん》を十回以上やっても通じないとみるや、次の攻撃に移ったわけだが、スコット選手には《ダイ・ハード》がある! どんな相手も攻撃も、硬くして壊しやすくして破壊するのがスコット選手の常套手段! いわば袋の鼠なのだー! ミナト選手、大丈夫かー!?」


 クロノの心配するような実況も、ミナトは強気に聞き流す。


 ――僕はこの刀、『わのあんねい』の力を信じている。可能性を信じている。暴れん坊なこの刀が、斬ることが好きなこの刀が、なにも斬る前にやられるなんてあり得ない。


 ミナトは距離を詰めた。

 スコットの目はミナトをしかと見るが、バトルアックスを振り回すことはしない。


「こい!」


 待ち構えて、硬化させてから叩くつもりだ。


 ――そっちがカウンター狙いなら、そのままぶった切ります!


 ミナトが大きく剣を振りかぶり、振り落とすように鎧を叩いた。


「《くうきょう》」

「無駄ァ!」


 クワッと、スコットの目が見開く。


「《ダイ・ハード》!」


 新技は、《くうざん》を直接叩き込む一撃。

 亜空間がスコットの鎧をえぐり取りにいく。

  ――手に響く。『わのあんねい』が、いつものしなやかさを失っている……!

わのあんねい』が《ダイ・ハード》の脅威にさらされ、硬化されたとき、ミナトの手に伝わる感覚にもそれがハッキリとわかった。

 今までの刀とは、まるで別物の刀になってしまった。

 そして、ミナトは高い音を聞いた。

 キン、と。

 刀が折れてしまったのである。


「《くうきょう》は、亜空間で叩く攻撃なのに……」


 ぽつりとつぶやくミナトに、スコットが言った。


「いや! 届いた! その刀は、オレの鎧に届いたぞ!」

「『わのあんねい』と鎧の間にあった亜空間が押しつぶされるように消滅して、最後はただの剣になってしまったのかもしれない」


 スコットが言う。


「なるほどわかったぞ! まるで剣を覆っていた水風船が、鎧との間に生まれた圧力によって破裂してなくなったようなものだったのか!」


 剣と鎧の間にあった亜空間は、《ダイ・ハード》のあまりの硬さとミナトの剣の強さに耐えきれず、つぶれて消え去ってしまったものと思われる。その後、むき出しの剣は鎧に届くと同時に、《ダイ・ハード》の力で折れてしまったわけだ。


「まあそんなところでしょう」

「これで終わりだ!」


 スコットがバトルアックスを振るった。

 今まで、ミナトは自らの剣がこうも思い切り折れてしまったことなどない。だから呆然となった。

 けれども、先のスコットの言葉ですぐに我に返ると、亜空間がつぶされてしまったと理解し、もう正気を取り戻していた。

 バトルアックスをよけるくらいミナトなら造作ない。

 さっと距離を取って、スコットはぐるりとバトルアックスを回してミナトに向かって構え、いつでも戦えることを示す。


「サツキ選手とカーメロ選手は互いに攻める攻める! だが、決め手に欠ける印象だ! 激しさは増すが、クールな二人の闘志と冷静さがぶつかり合う、おもしろいバトルを繰り広げているぞ! それに対して、ミナト選手とスコット選手はなかなかに厳しいー! ミナト選手、早くも一本目の刀を折られてしまったー! これはキツーい!」


 確かにキツい。

 だが、ミナトはまだ諦めてもいなければ怯みもしていない。むしろ、折れた刀に感謝していた。


 ――今までありがとう。『わのあんねい』、おもしろい刀だった。もっといっしょに遊びたかったな。そして、もっとキミを知りたかった。でも、刀はまた目覚めることもできる。少し眠っていておくれ。


 刀を鞘に収める。


「さて。スコットさんとの戦いは始まったばかり。こんな強い人と戦えるなんてワクワクする。楽しくなってきたぞ。僕の剣のすべてが通じないのか、見させてもらおうか」


 ミナトは静かに心を研ぎ澄ませる。

 スコットが、


「いくぞ」


 とバトルアックスを動かしたとき、ミナトは斬撃を飛ばしていた。もう一つの刀、長年の愛刀にして天下五剣の一振り、『あましらぎく』を抜刀して、また鞘に収めていた。


「どうぞ」

「……」


 バトルアックスは空気の刃とも言うべき斬撃に弾かれるように動きを止め、スコットはミナトをにらんだ。

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