78 『アンクシャスハート』
クロノがサツキの様子を見て、苦しそうに実況した。
「重なる猛攻撃! サツキ選手これはキツーい! 満身創痍だー! 《スタンド・バイ・ミー》によって、計算されたナイフがサツキ選手の右耳を後ろから切り落とし、そこからの連続攻撃は見るのもつらいほどだった! だが、サツキ選手はまだ立っている! まだ戦う意思は失っていない! そんな顔だ!」
カーメロの鮮やかな手際に沸く観客たちの一方で、クコたちはサツキの傷を不安そうに見つめる。
クコは自分まで怪我して痛みに耐えるようにつぶやく。
「なんて痛ましい傷……サツキ様、苦しい時だと思いますが、頑張ってください!」
「だ、大丈夫かな? サツキくん、すごい血だよ……」
と、アシュリーは口を押さえる。
ナズナは「サツキさん、耳が……」と目を覆ってしまっているし、リラも直視するのはつらい。
「目には闘志が残っています。大丈夫です、サツキ様なら」
「うん。どんなに傷ついても、きっと立ち止まらない」
チナミもサツキがまだ立ち向かうことを確信しているし、ヒナだってサツキを信頼していた。
「そうね。あんなやつに、サツキは負けない。ミナトもいるだもん」
「ただ、時間との闘いって条件もついてしまった。厳しくなるよ」
と、シンジも落ち着かない顔で言った。
バンジョーは力強く応援する。
「サツキは強い! ミナトも強い! あいつらはやってくれるさ! 頑張れよー! うおおおおお!」
「いいね、バンジョーくん! こういうときこそ、ボクたちが応援しなきゃ!」
「だね、アキ! ファイトー! サツキくんミナトくーん! いけー!」
アキとエミが「ファイトー!」と何度も言うが、二人はこんなときでも明るい。リディオとラファエルもクコたちのような不安は見られない。
「倒すんだー! サツキ兄ちゃん! ミナト兄ちゃん! 負けるなー!」
「劣勢だけど、巻き返しは可能だ。二人なら……」
バージニーは心配そうに、
「あのさ、カーメロさんって普段ここまでしたっけ?」
とマドレーヌに聞いた。
「いや。かなり追い詰めてるね。いつもなら場外にするとか、割とスマートなやり方を好む人だよ。スコットさんが暴れる代わりに、カーメロさんは一歩引いてる。でも、今日は気合が入っているのか、なんなのか……」
二人の会話を聞いて、ブリュノが薄く微笑んで、
「なるほど。サツキくんの麗しさが、彼をやる気にさせたってことか。しかし、違うだろうね。サツキくんがトリガーって点はそうだが、彼は彼自身と戦っているみたいだよ」
「なにか知っている、というわけでもないみたいですね」
とルカが言うと、ブリュノは肩をすくめる。
「サツキくんには不思議な魅力がある。それしか知らない。だが、カーメロくんはサツキくんを見ているようで、ちゃんと見てない。自分と戦っている。そう思っただけさ」
ルカには微妙にわからない。だが、ブリュノの言うように、サツキをただ敵意だけで攻撃しているとも思えない。
――ミナトの剣も折られて、サツキは満身創痍。厳しくなったわね。でも、私なら今のあなたの傷も治せるわ。私も成長しているから。
この時点では、ルカも自分でサツキの治療をしてやれると考えていた。取れた耳もくっつけられる。傷口も塞げる。だが、これ以上に深い傷を負ったらわからない。ルカもサツキの成長に期待はしているが、無事を祈る気持ちもそれ以上だった。
――ただ、スコット選手の《ダイ・ハード》をくらってしまっては、私にも治せない。だから、無茶はやめてよね。
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