75 『エバリュエイトアビリティー』

 カーメロの眉が、ピクリと動いた。


「ほう。楽しみだ。では、やろうか」


 微才な表情の変化を、サツキは見逃さない。


 ――ロメオさんに、反応した? あの敵意は、俺への純粋な敵意ではない?


 つまり、ロメオへの敵意も混ざっているのだろうか。サツキが疑問を覚えたところで、後ろからミナトが問いかける。


「時に、カーメロさん。僕その間ヒマになるんですが、スコットさんと遊んでいても構いませんか」

「お好きに」


 とカーメロが答え、スコットも尊大に言った。


「ああ、遊んでやる。かかってこい。だが、粉々にされても、文句は言うなよ」

「ええ。そういう戦いですから」


 ダブルバトルとしては、ややめずらしい展開となった。どちらかがサポートして一人がメインアタッカーになるパターンや、二人が協力して場を作るケースが多いのがコロッセオにおけるダブルバトルの特徴だ。

 カーメロがサツキを利用してミナトを同士討ちさせようとしたみたいに、なんらかの方法で利用する戦術もある。

 しかし、カーメロがサツキに申し込んだような一対一はあまり見られない。

 普段サポート役が多いカーメロ自身が仕掛けるのは特に希少な光景だった。

 そのため、カーメロのファンはうれしそうな声をあげていた。


「おお! 久しぶりのカーメロシングルバトルじゃねえか!」

「きゃーっ! カーメロさんのシングルバトル見られるなんてサイコー!」

「また魅せてくれよ!」

「かっこいいカーメロさんが見たーいっ!」


 選手四人の話を聞いて、そして会場の熱気を受けて、クロノが再びしゃべり始めた。


「スコット選手&カーメロ選手! この最強バディーが、サツキ選手とミナト選手を好敵手と認め、さらにはカーメロ選手がサツキ選手に一対一でのバトルを申し込んだぞ! もちろん、サツキ選手はこれを受けるようだ! さらに、ミナト選手はスコット選手を挑発し、こちらもバトルが始まろうとしている! おもしろくなったきたー!」


 盛り上げるだけ盛り上げて、クロノは笑顔で、


「なお、一応これはダブルバトル! 四人共、いつ二対一を仕掛けてもいいし、仲間を利用しても構わない! 『ゴールデンバディーズ杯』がダブルバトルの大会である限り、二人で戦うことは正々堂々なのだー! 我々試合を見る者たちは、キミたちのおもしろいバトルを期待しているぞ!」


 と締めくくった。

 この言葉で、選手たちはいつでも自由にダブルバトルへとシフトできるようになった。途中で一対一をやめて味方と連携する免罪符が得られたのだ。


 ――クロノさんのおかげで、戦況が厳しくなったら、ミナトに頼って立て直すのがしやすくなった。これで気持ちが楽になったのは、一番は俺。ほかのみんなは気にしてなさそうだけど、カーメロさんには注意だな。


 フィールド上に四人の選手がいることをもっとも利用しようと思うのは、魔法の性質上カーメロだからだ。しかし、カーメロが一対一にこだわって仕掛けてきた。だから、サツキがうまく戦えた場合のみ、カーメロは味方の利用を考えることだろう。


 ――カーメロさんがスコットさんやミナトを利用する可能性は捨てきれない。それにも注意を払って戦うのがよさそうだ。逆に、スコットさんはカーメロさんを利用するタイプじゃない。性格的にも、魔法的にも。ミナトも一人で楽しみそうだし、俺が視野を広く持たないとだな。


 サツキがグローブをきゅっとしっかりはめ直す。

 そこで、カーメロが言った。


「さあ、それでは始めようか。キミがどう鍛えられたのか、力を魅せてくれ。ボクが評価してやろう」

「では、いきます」


 自分から攻撃をしに駆け出した。

 ハルバードが待ち受ける。


「サツキ選手、突撃だー! 距離を詰めたら連続攻撃! 突きと蹴りの連打に、カーメロ選手はハルバードで受けていく! しかーし、ハルバードが突き刺してきた! が、うまくかわすー! サツキ選手、目がいいぞー!」


 できる限りの連続攻撃でいくサツキに、カーメロは見定めるようにハルバードで捌く。


 ――城那皐、確かに目がいい。さっきのミナトくんよりも目がいい。あちらは空間把握能力と反射神経だったが、サツキくんはすべて目で見ている。


 ハルバードが振り回しにくいよう、しっかり距離を詰めている。それでいて、左手には注意して、簡単に触れさせない。


 ――間合いの取り方がいいのは、ハルバードとの戦闘経験の差を埋めることになる。だからあえて腰の刀を使わなかったのか。まあ、ボクはこのリーチでも問題なく扱えるが、付き合ってやろう。別の攻撃を仕掛けるために。


 左手に、袖からナイフをすべり落とした。

 サツキには見えないようナイフが握られる。《スタンド・バイ・ミー》のタネを仕込もうとしたとき、カーメロはサツキの目が自身の左手を見たことに気づく。


 ――読みもいい。ボクがここで仕込むことを読んだのか。

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