74 『アスクシングルバトル』

 サツキとミナトが二人並んだところを見て、今の攻防からちょっと遅れながらも、『司会者』クロノが実況を入れた。


「驚愕のタイミングで、《スタンド・バイ・ミー》が発動したー! サツキ選手にミナト選手を討たせる最悪のタイミングで、発動していたー! しかししかーし! ミナト選手、背後からの攻撃にもまるでわかっていたとでも言いたげな余裕の反応です! すごいぞ、この剣士はー! サツキ選手とミナト選手、二人は以心伝心だ!」


 会場も、サツキとミナトがカーメロのファーストアタックを防いだことで、盛り上がっていた。


「スゲーじゃねか、ルーキーコンビ!」

「あいつら、本当にすごいのか!?」

「スコットにも一撃入れたしな。それにしてもよ、まさかスコットと入れ替わるとは思わなかったぜ! カーメロはいつスコットに触れてたんだ?」

「試合前、だろうな。だが、ここからは左手に触れた物が次の対象ってわかっちまう。《スタンド・バイ・ミー》はそれで脅威を失うような汎用性のない魔法じゃねえが、サツキとミナトには大きな一歩だぜ」

「頑張れよ、サツキとミナトー!」


 少しずつだが、サツキとミナトを気に入らない様子だった観客たちにも応援してくれる人が現れている。

 カーメロがやや不満そうにつぶやく。


「パーフェクトだと思ったが、予想以上だ。あの二人」


 クロノは冗談でも言うように笑いながら、


「まあ、本当に以心伝心なら、サツキ選手はミナト選手に斬りかからなかったか。あははは。さて、そんなことはいいのだ! 戦況はまだまだわからないぞ。なんといっても、勝負は振り出しに戻ったようなものだからだ! サツキ選手の先制攻撃はスコット選手に通じず、カーメロ選手の魔法もミナト選手には通じなかった! これで、双方また一からスタートと言える! それでも、失ったカードはサツキ選手が痛いか! 無数の戦術を持つカーメロ選手は不敵に構える! この試合、どうなるんだー!?」


 続けて、カーメロはスコットに聞いた。


「彼、しろさつきはどうでした? スコットさん」

「悪くない。伸びる。この先、強くなるだろう。だが、まだまだオレの足元にも及ばん。もし、力を隠しているわけじゃねえのならな」

「へえ。それはおもしろい。今度はボクにやらせてください。城那皐と」

「おまえが一対一をしたがるなんて、めずらしいな」


 いつもはスコットのサポートに回るか、最初か最後に少し仕事をするだけのことが多い。だから意外にも思ったが、カーメロの心情を考えると、スコットも同意した。


「相手が相手だしな。わかった。好きにしろ」

「ありがとうございます、スコットさん」


 くるりとハルバードを回しながら前に進み出るカーメロ。

 サツキもミナトに目線を投げる。ミナトがうなずいたのを見て、サツキも前に出た。


「お相手しましょう」

「よかった。戦ってくれるみたいで安心したよ。城那皐くん」


 試合が始まるときからずっと、カーメロはサツキを意識していた。明らかな敵意が感じられた。その正体を知りたいと思っていたのだ。サツキも望むところだった。


 ――俺に向けた敵意の理由。それも気になるが、この人はスコットさん以上にテクニシャンだ。どこまで戦えるか、試してみたい。それに、カーメロさんの魔法は俺なら目で追える。


 サツキの魔法、《緋色ノ魔眼》は魔力を可視化することができる。

 これによって、実はさっきもスコットの背中にカーメロの魔力が付着しているのが見えていたのだ。

 スコットが強大なためミナトへの注意喚起をする余裕がなかったが、ここからはそれらも見極め、《透過フィルター》でカーメロが隠している武器も一つ一つ視認しながら戦っていく必要がある。

 拳を握り、サツキは言葉を返す。


「俺はこの拳で戦います。ロメオさんに鍛えてもらった力、試させてもらいますね」

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