72 『セットレフトハンド』
スコットを相手にサツキが苦戦している頃、ミナトはカーメロと戦っていた。
――サツキが最初にスコットさんを刺して、致命傷を与えてくれるって作戦だったけど、そっちに気を回す余裕、あんまりなさそうだ。カーメロさん……この人かなり強い。
万能の武器、ハルバードが息つく間もなく、次々とミナトに攻撃してくる。突く、振り回すのはもちろん、かぎ爪で引っかけてきたり、尖端の槍の部分ではなく柄でも突いてくれば蹴りも挟んでくる。
――一つ一つの攻撃が鋭い。攻撃の種類も豊富で、緩急がすごい。蹴りとかまで混ぜてくる。しかも、左手でいつも僕を狙っている。戦いにくいなァ。
今もカーメロの左手が伸びて、ミナトの肩を触ろうとしていた。
だが、ミナトも易々とは触らせない。
――この左手、触られたら《スタンド・バイ・ミー》でどこに飛ばされるかわからない。場所の入れ替えがされるはずなんだけど、僕じゃないもう一つの対象が未だ不明なんだよね。
カーメロの魔法《スタンド・バイ・ミー》。
物と物の位置を入れ替える魔法である。
触れることが条件で、最初に触れた物が一つ目の対象になり、次に触れた物が二つ目の対象となる。二つ目の対象に触れたとき、二つの物体の場所が入れ替わってしまうのだ。
前の試合では、最初にナイフを対象として場外に投げ捨て、次に対戦相手に触れて場外のナイフと場所を入れ替え、相手を場外負けにした。
――あれと同じことをしたければ、またパフォーマンスしてなにか場外に捨ててから僕に触れようとするはず。なのに、その下準備を見せずに戦いが始まってしまった。でも、僕に触れようとしている。これって、なにか、もう仕込んでる……? それとも、別の戦術があるのかな?
鮮やかなハルバードの挙動を捌きながら、ミナトは問うた。
「今度はどんな作戦なんです? 気になるなァ」
「というと?」
「いやあ、まだ一つ目の対象を見せてもらってないのに、僕を狙ってるからですよ」
カーメロはフッと笑った。
「ボクのハルバードをうまくいなすのも天才的な技術だと思ったが、ボクがもうキミに触れようとしていることまでわかっているなんて、目がいいんだね」
「サツキほどじゃァありません。が、あれだけ無駄な動きを挟むなんておかしいでしょう。僕に触れようとでもしていない限りは。結構目立ってると思うけどなァ」
「これは驚いた。ハルバードを相手に、これだけおしゃべりしている余裕まであるとは、よほどの剣士のようだ。ハルバードと戦った経験は?」
「初めてです。おかげさまでやりにくいのですが、お話を戻しても構いませんか」
素早く乱れる両者の武器だったが、ハルバードがミナトを突き刺してきたところで、ミナトの刀もハルバードの尖端に突きを繰り出した。
ぶつかる。
しかし、力で相手を押したのはミナトの刀だった。
ハルバードがぶれると、カーメロの右手に大きな負担がかかった。
――どうかな?
ミナトが薄い微笑でカーメロを見ると、カーメロは左手でハルバードを支えるように持った。
――おや。《スタンド・バイ・ミー》は発動せず、か。
狙いと結果は、ミナトの欲しかった物ではなかった。
――ハルバードに強い衝撃を与えて左手を使わせるために、刃の先がぶつかり合うようにした。その際、左手を使わずに温存するためにハルバードを取りこぼしたら儲けもの、あとは武器を失ったところに追い打ちをかけて両腕を切り落としたら終了。逆に、ハルバードがどっかに消えてくれたらそれもあり。代わりに手元へ来る物では僕の剣に対応できないって計算だった。でも、期待外れだったみたい。
結果は、そのどちらでもなかったのだ。
――つまり、ずっと右手だけでハルバードを持って戦っていたのは、左手での《スタンド・バイ・ミー》のためじゃない、のかな? いや、この角度から見ただけでは、右手がハルバードに触れているかは見えない。一瞬だけ、手の甲がハルバードを支えたようにも見えた気がする。器用に手のひらには触れずに凌いだ可能性はある。警戒は続けよう。
心の準備として、もし触れられてしまった場合、急にどこかへ飛ばされることも考えておく必要はある。
そのへんの考察を終わらせてからサツキのほうがどうなったか見たかったが、クロノの声が聞こえてきた。
「一度は受けた傷! しかしそれも、スコット選手は《ダイ・ハード》で治してしまったー! 正確には、傷口の血を硬化させて、傷口を塞いだのだー! 傷口を固めた血は今や鋼鉄より硬い! そして、『
これを聞き、ミナトは少しばかり驚いた。
「まいったなァ、そんなことまでできてしまうのか。反則だよ、傷が治ってしまうなんてさ」
「だからスコットさんは強いんだ」
そう言いながら、カーメロがミナトに不意打ちをかけた。
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