70 『ブラッドクロット』

「サツキ選手、走る! スコット選手目がけてダッシュだー!」


 セミファイナルが始まり、サツキが最初に突っ込む。それを『司会者』クロノが実況する中、カーメロがサツキの進路を塞ぐように動いた。


「行かせないよ。どんな狙いがあるかは知らないけどね」

「それは困るなァ」


 ハルバードと刀がぶつかる。

 斧と槍を合わせた万能武器・ハルバードを操るカーメロを、ミナトは刀で遮る。

 わずかな力の働きと細かな向きの変化がハルバードにかかっているが、それをミナトの刀はピクリともさせずに抑えていた。


「へえ、やるね」


 カーメロはミナトの手を見る。


 ――この細い腕のどこにそんな力があるのだ。ボクがハルバードのかぎ爪で引っかけようとしても動かないし、叩き潰そうとしても揺るがない。ボクがコロッセオで手合わせした中で、間違いなく最強の剣士だ。が、剣だけならいくらでも飛ばせる。


 ミナトがカーメロに邪魔させないようにしてくれた隙に、サツキはそのままスコットへ向かっていった。


「これはなんと! ハルバード対晴和刀の戦いが始まったぞ! だが、互いに力では負けていない! 小技でどうにかできる相手でもない! ここからが腕の見せどころだー! 一方、サツキ選手の突撃を把握しながらも、スコット選手はどんと待ち構えている! どうなるー!?」


 まだ互いに魔法を使っていないこの状況で、サツキとミナトはすでにスコットとカーメロの魔法を知っていた。それはリディオとラファエルに聞いた範囲のことであり、また前の試合で観察した限りのことである。

 これに対して、スコットとカーメロは、おそらくサツキとミナトの魔法を知らない。前日、彼らはサツキとミナトの試合を観に来たとサツキは聞いたが、魔法を把握することは極めて難しいからだ。

 サツキの魔法が《緋色ノ魔眼》と《波動》であり、いろんな物が見える特別な目とすごいパワーを生み出す魔力コントロールでしかないので、外から見ただけではよくわからない。

 ミナトの魔法《瞬間移動》も、目に見えないから把握もできない。


 ――あとは、俺たちをどれだけ評価して調査してくるかだが、ここまでのやり取りで、俺たちを甘く見ていることがわかる。情報収集の必要性を感じないほどに。だから、最初に突く。スコットさんの無敵な鎧に、風穴を開けてやる!


 スコットの身体は、彼の魔法効果によって硬く覆われている。

 人や物を硬化させる魔法、《ダイ・ハード》がスコットとカーメロの身体を硬化させ、無敵とも思える防御力を持つのだ。

 しかし、ここに風穴を開けることは、サツキには可能だった。

 サツキがスコットとの距離を詰め、懐に入る。


「このオレに、素手で挑むか」


 ふんッ、とスコットは仁王立ちをする。


 ――見える。全身をさらに硬くした。そして、魔力が溶けるように……これで、触れた相手を硬化させるつもりか。


 さっきの試合を見て、サツキも学んだ。安易に硬化させられてしまうと、弾性を失って逆に脆くなる。


 ――だが、それも俺には通じない!


 ぐっと、サツキは左手を伸ばした。


 ――よし。


 スコットを覆う鎧に左手を当てた。


「はああああ!」


 さらに、右手も忘れない。右手には、刀が握られる。刀でスコットを突き刺す。


「……ぐっふ」

「く」


 刀を回せない、と思い、サツキは刀を抜いて左手をスコットの身体から離した。

 そしてたたっと後ろに下がる。


「やったー! 『波動のニュースター』しろさつき選手、スコット選手の脇腹を突き刺したー! サツキ選手のグローブがスコット選手の《ダイ・ハード》を打ち消して、そこへ剣を突き刺しました! まさかスコット選手が口から血を吐くとは、だれが考えたでしょうか! それもルーキーがやってくれました! あのレオーネ選手とロメオ選手以外にはだれも成し遂げたことすらない偉業です!」


 サツキは狙い通りの攻撃が決まって、安堵した。


 ――やるだけやった。《打ち消す手套マジックグローブ》で魔法を打ち消せば、いくらスコットさんが無敵の防御力を持っていても、一撃を入れられると思っていたが、いけた。突き刺せた。このダメージは大きいぞ。


 スコットは苦悶の表情を浮かべていたが、それもわずか数秒のことで、目をくわっと開く。


「すわっ!」


 今度はサツキが目を見開く番だった。


「傷が……、塞がった……?」

「オレに血を流させたのは、やつら以外ではおまえが初めてだ。だが、こんな小さな傷じゃあオレを倒せないぜ」


 クロノは楽しそうに実況を続けた。


「一度は受けた傷! しかしそれも、スコット選手は《ダイ・ハード》で治してしまったー! 正確には、傷口の血を硬化させて、傷口を塞いだのだー! 傷口を固めた血は今や鋼鉄より硬い! そして、『かいしん』に同じ攻撃はもう通用しない! かもしれないぞ。サツキ選手に次の手はあるのかー?」

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