69 『ウェルカムハスタイル』

 サツキはカーメロと目を合わせる。


 ――この人、俺を意識してる……? 強いミナトのほうじゃなく、あえて俺を? なぜだ。


 ようこそと歓迎の言葉を言いながらも、強い敵意を感じる。

 まだ言葉を返さず、サツキはこめかみに指を当て、カーメロをくまなく観察してゆく。


 ――《とうフィルター》発動。この人はあらゆる道具や暗器を仕込んでいる。だが、使い方が自由自在で、あまり参考にもならない。とりあえず、この人を相手にするには、試合中ずっと《透過フィルター》を起動させておくしかなさそうだ。ほんの一瞬の反応の早さで回避できる攻撃も多い。


 サツキの魔法《透過フィルター》は、物体を透過して見ることができる。物体単位で透過枚数を決めるため、たとえば一枚透過するだけなら衣服の一番の外に羽織っている物だけになる。

 カーメロはその一枚一枚で仕込む道具があり、戦闘の天才と呼ばれる彼には無数の使い方ができるのだ。ゆえにサツキはその道具を可視化しておくしか今できることはなかった。

 黙っているサツキに代わり、ミナトがにこりとして言った。


「楽しみにしておりました。この時を」

「それは光栄だね。だがしかし、この時は長くは続かない。我々に期待されているのは勝利。強さを見せること。それはルーキーを相手にしてもね。だから、遊ぶ時間はない」

「いやだなァ、コロッセオってのはエンターテインメントだと聞きましたぜ。遊びましょう。僕は……僕らは、最後に勝てればいいんです。あとは楽しませてあげられたら、それでね」

「生意気なルーキーだ。いいだろう。キミたちの実力、とくと見せてもらおうか」

「ええ。ごらんください。僕の神速が見えるのなら、ね」


 口元に微笑みを浮かべてはいるが、カーメロは少し苛立ったようにサツキには見えた。感情の動きがあったせいで、魔力の流れがざわっと蠢いたからだ。逆に、ミナトはどこまでもいつも通りに飄々としている。

 会場からはミナトに「生意気だぞ!」と怒っているスコット&カーメロのファンもいるが、盛り上がっていた。


「なんという丁々発止だー! これはおもしろいぞー! 怒るファンもいるようだが、どんな試合も始まらなければわからない! 終わるまではわからない! それがコロッセオだ! 我々会場を楽しませてくれる試合を、どうか見せてくれ! サツキ選手とスコット選手にもお話をうかがいところですが、まずサツキ選手、いかがですか?」


 クロノに問われて、サツキは答えた。


「レオーネさんとロメオさんと約束したので、あのお二人と戦うまでは負けられません」


 すると、またカーメロの魔力がざわついたのがサツキには見えた。

 けれど、知らんぷりをして考える。


 ――因縁でもあるのか? 俺の言葉が良くも悪くも作用することだろうが、それもいい。


 サツキがそう思ってロメオにもらった白いグローブを装着する。それをまた、カーメロは鋭い目で見るのだった。


「サツキ選手はレオーネ選手とロメオ選手のお二人と約束があるようです! いいですねえ、見てみたい! これは負けられませんね! さっそくロメオ選手にいただいたというグローブを手にはめて、戦闘準備も万全といったところでしょうか! さて、スコット選手はいかがですか?」


 水を向けられたスコットだが、この試合でも言いたいことなどない様子で、


「勝つのはオレたちだ」


 と答えたのみだった。


「力強い言葉です! 微塵も揺らがぬ風格がここにあります! さあ、みんなも早く見たいことでしょうし、ワタクシのおしゃべりもここまでにして、試合を始めましょうか!」


 わーっと会場が熱狂する。クロノは両陣営を交互に見てうなずき、試合開始を告げる。


「それでは『ゴールデンバディーズ杯』二日目、セミファイナル第一試合! スコット選手&カーメロ選手対サツキ選手&ミナト選手の試合を行います! レディ、ファイト!」


 開幕に合わせ、サツキは対策していた戦術で動き出した。サツキはスコットに向かって走り出していた。

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