59 『ネプチューントライデント』
ハルバードとトライデントの打ち合いは、トライデントの一撃が相手に大きな隙を作った。
大抵の使い手ならば追撃を受ける前に態勢を立て直せる隙だが、アポリナーレとカーメロほどの使い手同士の戦いでは、かなり大きな隙となってしまった。
咄嗟に、カーメロはナイフを放つ。
アポリナーレは追撃する。
これによって、ナイフはアポリナーレの左腕に刺さり、トライデントはカーメロの左肩を突き刺した。
双方、ダメージは負ってしまった。
どちらも流血している。
傷はカーメロのほうが深い。しかし、アポリナーレは驚愕していた。
――この我が輩のトライデントをあれだけ直に受けておきながら、たった二センチほどの傷しか負わないとは、どうなっているッ……! 生身の肉体というより、硬い石にぶつかったような感覚だったぞ。
カーメロも同様に驚いていた。
――へえ。ちゃんとボクの身体には魔法がかかっていたというのに、まさか二センチも刺されるなんて。思っていた以上のパワーだ。血が出るとは思わなかったよ。相当やるね、この人。
「カーメロ選手がトライデントに刺されたー! なんてめずらしい光景でしょうか! カーメロ選手が傷をつけられるとは、驚きだッ! しかししかーし、カーメロ選手もナイフを投げて応戦した! 両者、これで手負いとなってしまったぞ! さあ。この先どうなるー?」
ナイフでの応戦を、苦しまぎれの一手と思う人もいることだろう。
しかし、観戦しながらも、サツキはカーメロが放ったナイフの効果をいち早く計算できていた。
――……カーメロさん、あのタイミングでナイフを投げられるのか。あのパワーを相手取って、先を計算して、しかも応用を利かせられるナイフを。
あのナイフ一本で、彼の魔法《スタンド・バイ・ミー》があれば、幾通りもの戦術を生み出せるのだ。
――今のところ、カーメロさんがどのくらい本気かはわからない。それでもあの人の戦闘センスは本物みたいだ。余裕そうにしているけれど隙がなくて底が見えない。
ダメージが大きいのはカーメロに思われるが、のちに打つ手を考えると、二人の戦況は五分五分かもしれない。ただし、スコット抜きの一対一だったら、という条件にはなるが。
――それにしても、カーメロさんに攻め手を与えていないとはいえ、アポリナーレさんのあの落ち着きよう……。二対一の状況で微塵も焦りを感じさせないのは、相当汎用性の高い魔法を使えるからと見える。
にらみ合うカーメロとアポリナーレ。
そして。
アポリナーレはトライデントを地面に突き立てた。まるでもう片がついたとでもいうように。
「《
トライデントが地面に突き立ったあと、地面は揺れた。
ただし、揺れているのは舞台だけだ。
「じ、地震だー! 地震が起きている! 地震です、みなさん大丈夫でしょうか!? 大丈夫? ということはやはり、アポリナーレ選手の《
舞台の揺れに膝をついても、『司会者』クロノは実況をやめない。そのプロ根性にも、アポリナーレが魔法を発動させたことにも、会場は盛り上がった。
サツキも不可思議な光景に目を瞠った。
「舞台だけ揺らすなんて、どんな魔法なんだ」
「言ってもよければ説明しますが?」
ラファエルが申し出てくれたが、サツキは手を小さくあげて拒否する。
「いや。もう少しだけ観察する」
「そうですか。わかりました」
ちょっとうれしそうにラファエルは答えた。
――それではサツキさん。見せてもらいましょうか。あなたの洞察力を。ヴァレン様たちが認めるあなたなら、彼の魔法の秘密を紐解くこともできるのでしょう?
できてもらわねば困る、とラファエルは思った。
「サツキ兄ちゃん、推理がんばれよ」
リディオに応援され、サツキは小さく微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます