58 『ハルバードスキル』

「兄貴、おれ場外になっちまいました! すみません!」

「構わん。気にするな」

「あ、兄貴ぃ! あとは頼みますッ!」


 場外になったルーチョが、アポリナーレにこの試合を託した。

『ゴールデンバディーズ杯』は二対二のダブルバトルの形式を取っている。

 ゆえに、いかに二人で効果的に戦えるかが勝利の鍵となる。

 しかしアポリナーレは、味方を場外にされ二対一の状況になっても、まったくひるまなかった。


「強気だぞ、アポリナーレ選手! この危機に動じないとは、さすがの胆力だー! さあ、次に仕掛けるのはだれだ!?」


 動いたのは、カーメロだった。

 宣言通り、次はアポリナーレを場外にするのは自分だと言うように、今度はハルバードをぐるんと回しながら迫った。


「やはりカーメロ選手が果敢に攻める! 万能の武器・ハルバードがいかにして攻めるのか!」


 アポリナーレはトライデントで応戦する。

 トライデントとは、さんそうと呼ばれる先が三つに分かれた槍である。ハルバードが斧や槍の性質を持っているのに対して、この三つ叉の槍も戦い慣れていないとやりにくいはずだ。特に、一級品のパワーを持つアポリナーレが相手だと、普通ならトライデントに当たっただけで武器が弾き飛ばされることだろう。

 しかし、カーメロは『戦闘の天才』と言われるだけあって、うまくいなして戦っている。

 リラはこれを見て、


「あの体格差でトライデントと互角にやれるなんて、すごいです」

「ハルバードの、おかげかな? 万能の武器……みたいだし」


 ナズナが聞くと、チナミは考えながら答えた。


「そうだけど、それだけじゃない。ハルバードは、扱いが簡単な武器じゃない。むしろ、特殊な形状から、斬る、突く、叩く、かぎ爪で引っかける、みたいにいろんな使い方ができる反面、選択肢も多い。リーチも長いし訓練しないとうまく使えないから、戦い慣れるかセンスがないと最適な選択ができない、扱いの難しい武器。今も、引っかけた、そして、叩いてトライデントの軌道を変えた。しかも最小限のパワーで、必要最低限だけの力を加えて。よほど戦闘センスがよくないと、アポリナーレさんのパワーを相手にあんな軽やかに戦えないと思う」


 うむ、とサツキも同意した。


「アポリナーレさんのパワーは驚異だ。でも、それを捌くカーメロさんは、とにかくうまい。武器の扱い、相手との距離の取り方、なにもかもがうまい。どんな武器を使う人間だろうと、カーメロさんを見ることは勉強になる。それほどの戦士だ」

「だねえ。僕も早くやりたいなァ、あの人と」


 と、ミナトは頭の後ろで手を組んで眺める。

 カーメロとアポリナーレ、どちらも戦闘経験があまりない武器を相手に一歩も引かない打ち合いを繰り広げていた。


「なんてレベルの高い攻防でしょうか! トライデントは万能たるハルバードに遅れを取らない! ばかりか、いつもなら一瞬で戦闘を片づけてしまうカーメロ選手と互角だー! い、いや、なななな、なんと!? ハルバードが弾かれたー!」


 ハルバードは大きく弾かれた。

 まだカーメロは手に握ったままだが、ハルバードが後ろに弾かれるのを防ぐように身体が開く。

 カーメロはすかさずナイフを投げた。


「フッ!」

「やああ!」


 アポリナーレも攻撃の隙を見逃さず、トライデントでカーメロを突いた。

 トライデントは、カーメロの肩に突き立った。

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