57 『スイッチポイント』
ルーチョが抜いた剣。
名を、カットラス。
ブリュノに続けて、ルカが説明する。
「昔、海賊がよく使ったそうよ。障害物が多い帆船の上での戦闘がしやすい、振り回しやすい形状になっているわね」
「ならば、ここまで至近距離になると……」
サツキはカーメロのハルバードに注目した。
この状況、距離が近くなり過ぎて、レンジのあるハルバードで相手を攻撃するのは難しい。逆に、カットラスは刀身も短いから容易にカーメロを攻撃できる。
――『戦闘の天才』と言われたこの人は、どうするんだ……? そもそも、狙いがあるから飛び出したんだ。狙いとは、いったい……。
カーメロはさらに距離を縮めようとする。
当然、ルーチョは短剣カットラスを閃かせた。
しかしカーメロには当たらずにかわされ、ついにゼロ距離までくると、ルーチョは掌底でも繰り出すように手を伸ばした。
「この距離でも《ランブルフィッシュ》は使えるんだよ!」
「いや、もう終わりです」
体術は、カーメロのほうが優れていた。
トン、とルーチョの肩を押したら、もうルーチョはそこにはいなかった。
代わりに目の前に現れたのは、先程カーメロによって場外に投げられたナイフだった。
カーメロはそのナイフが落下運動を始める前に手に取る。
そして、ルーチョがそのあとどうなったのかというと、カーメロの魔法を知っている会場の観客たちが想像していた通り、ナイフがさっき突き立っていた場所に尻もちついて呆けていた。
「や、やられた、のか」
目をしばたたかせるルーチョ。
「ルーチョ選手、場外ー! しょっぱなから手加減なしだぞ、カーメロ選手! なんという早業でしょうか! 《スタンド・バイ・ミー》恐るべしだー!」
クロノの実況が響き、歓声も沸いている。
一階観客席では、ミナトが楽しそうに口を開いた。
「これが、リディオくんが言っていた《スタンド・バイ・ミー》か」
「おう! カーメロさんの魔法だ!」
リディオが昨日、ラファエルと共にスコットとカーメロの情報をくれたのだが、そこにはしっかりカーメロの魔法についてもあった。
「発動条件は、手に触れること。二つの物の位置を入れ替えるのですが、人や物に触れて、その次にまた別の物に触れると……」
「その位置が入れ替わるんだぞ!」
と、ラファエルとリディオが言った。
サツキはあごに手をやりながらつぶやく。
「ああやって使うことは俺も予想していたが、まるでパフォーマンスだ」
「さすがに前回大会優勝。魅せる戦いができているわね。このコロッセオではパフォーマンス力も大事だわ」
ヒナもコロッセオがエンターテインメントの場であることをよく知っている。パフォーマンスのよい選手は人を集められる。バージニーもそうだが、観客を楽しませるのは選手たちの役目であり、そんな選手にファンがつく。
サツキはコロッセオを、修業の場として力をつけたいと思っていた。同時に、士衛組とミナト個人の知名度を高めて人気をつけたいとも思っていたので、カーメロの動きには自然うなってしまう。
「最初の宣言から観客の心をつかみ、その通り場外にする。これだけでカーメロさんの仕事は終わったと言えるでしょう。しかし、あとを全部スコットさんに任せるとも思えません」
クコが真剣に舞台を見る。
「うむ。是非見たいものだな。二人が武器を使うところを」
ハルバードをどうやって扱うのかさえ見せてもらえないのだろうか。そう思っていると、カーメロはくるっとハルバードを回してみせた。
「次はあなたですよ」
スッとハルバードの先を向けられ、『コロッセオのポセイドン』アポリナーレは尊大にあごを上げて見下ろすように言った。
「我が輩には通用せんぞ。小僧」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます