56 『クオーターファイナル』
「アポリナーレ選手、調子はいかがですか?」
試合前、アポリナーレはクロノに水球貝を向けられた。
堂々と胸をそらし、アポリナーレは答える。
「我が輩は、大物を仕留めるのを楽しみに参加した! 獲物はデカいほどおもしろい! タルドナ海を支配した海の王たるこの我が輩を、大いに楽しませてくれ!」
「挑戦状を叩きつけたー! タルドナ海は一時期とある海賊たちに荒らされていましたが、アポリナーレ選手が海域を支配すると商船の往来が増え、近国の活気が戻った経緯があります! それ以来、ギドナ共和国などでは『
今度はルーチョが水球貝を向けられる。
「特にはないっすよ。すべては、元海賊だったおれを取り立てて居場所をくれたアポリナーレ兄貴の望むまま。おれはやつらのその重厚そうな威厳やらプライドやらを無にしてやれたらそれでいい」
「ルーチョ選手も、スコット選手とカーメロ選手から王座から引きずり下ろしてやろうといく意思が伝わります! 攻撃的だー!」
楽しそうに言ったあと、クロノはスコットとカーメロのほうへと小走りで移動して、質問する。
「お二人からもなにかあればどうぞ! 今大会、初試合ですが」
これにはカーメロが応じた。
「どんな相手だろうと関係ありません。ボクもスコットも、目の前の相手に勝つだけです。その先に、倒したい相手が待っているのでね」
「倒したい相手! それはもちろん、あのゴールデンバディーですね!?」
「……ふ。ええ、まあ」
一瞬迷ったカーメロだが、すぐに首肯した。
――正確には違う。ボクが倒したいのは、ロメオ。彼だ。
その理由はのちにわかることになるが、カーメロの言葉にクロノは相槌を打つ。
「やはりそうだー! ロメオ選手とレオーネ選手に、再び挑むのはまたこの二人なのかー!? 昨年の雪辱を果たすことを誓う二人には、この先の戦いへの期待に胸が躍ります!」
それからクロノはスコットにも尋ねる。
「スコット選手はいかがですか?」
「なにもない。勝つのは、オレたちだからだ」
腕組みを崩すことなく、重々しく言った。
すると、会場がわーっと沸いた。
「言ってくれましたスコット選手! まさに最強にふさわしい回答です! この大物二人を、アポリナーレ選手とルーチョ選手は仕留めることができるのか! 双方準備は万端のようですので、いよいよ本日最初の試合を始めていこうと思います!」
会場が盛り上がっているところで、クロノは一呼吸置いて、両陣営を交互に見て、ついに試合開始を告げた。
「それでは『ゴールデンバディーズ杯』二日目、クオーターファイナル第一試合! スコット選手&カーメロ選手対アポリナーレ選手&ルーチョ選手の試合を行います! レディ、ファイト!」
クオーターファイナル第一試合が始まった。
最初に動いたのは、カーメロだった。
ナイフを場外に投げた。
回転しながら地面に突き刺さったナイフを指差し、カーメロはルーチョに言った。
「あなたは十秒後、あそこにいる!」
次の瞬間、カーメロは走り出した。
「舐めたこと言いやがって! 兄貴、ここはおれが!」
迎え撃つのはルーチョ。
ルーチョは野球ボールを投げるように腕を振った。カーメロに向かって投げられたのは、網だった。
手の中から網が出てきたのである。
「おれの魔法、《ランブルフィッシュ》にかかったやつは重さを失う!」
魔法によって創られた網がカーメロを襲う。
「出たー! ルーチョ選手の《ランブルフィッシュ》! これでAブロックを一網打尽にしてきたが、その秘密は重さを奪うこと! 重さを失った相手は網に包まったまま、小石をもてあそぶようにポイッと投げ飛ばされてしまうのだ!」
ネットに入れたサッカーボールをくるくる回してネットごと投げるのを想像すればわかりやすいだろうか。
しかし、クロノが熱く実況する間にも、カーメロは魔法の網《ランブルフィッシュ》を避けて、ルーチョとの距離を詰めた。
「やつに触れるな、ルーチョ!」
「わかってるっすよ兄貴! ソラァ!」
ルーチョは腰に下げていた短剣を抜く。
一階席で見ていたサツキがつぶやく。
「あの短剣は……」
「カットラス。その名で知られた短剣だね」
と、ブリュノが教えてくれた。
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