54 『プレイヤーイントロダクション』

 トーナメントとタイムテーブルについて説明を終えると、『司会者』クロノは選手紹介に移った。


「『ゴールデンバディーズ杯』二日目、ベスト8に残った選手たちを簡単に紹介させてもらおう! みんなはあちらの白い幕に注目してくれ!」


 クロノが示した白い幕に、選手の顔が表示された。バディー二人の顔が映っている。


「まずは、前回大会優勝! スコット選手とカーメロ選手だ! すべてを破壊するせん・バトルアックスを操る『かいしん胴禁棲健斗ドーキンス・スコット選手! 彼に壊せない物はない! 壊さずにはいられない! 彼こそが『ゴールデンバディーズ杯』の頂に立つにふさわしい最強の選手といえよう! だが、この人の存在は忘れられない! 『万能の戦士ミスター・パーフェクト居千河召呂オルセン・カーメロ選手! カーメロ選手がその手に持つのはハルバード! 斧と槍を合わせた万能の武器は、万能の戦士によってその威力もパーフェクトとなる! 騎士の花形武器を巧みに扱い、トリッキーな魔法で翻弄もする戦闘の天才が、最強のスコット選手を無敵にするのだ!」


 強烈な歓声が上がる。相当の人気があるとわかる。それだけ勇名が轟いているのだろう。

 サツキはスコットとカーメロの顔を目に焼き付ける。昨日、リディオとラファエルには情報をもらったが、顔を見たことはなかった。映像でもわかる圧倒的な存在感に、サツキの闘志に火がつく。

 続いて、映像には別のバディーの顔が映る。


「コロッセオという海で、獲物を探す巨大なもり・トライデント! 突き刺せばどんな相手も動けなくなる一撃で、『コロッセオのポセイドン』来合否丹亜堀鳴キアッピーニ・アポリナーレ選手は勝利を貫きにかかる! このコロッセオの海で漁をするのはアポリナーレ選手だけじゃない! 『フィッシャーマン』凝地留緒コルッチ・ルーチョ選手! 強豪ひしめくAブロックを一網打尽に制してきた海の男が、最強バディーをも仕留めるのか!」


 アポリナーレとルーチョも、海の男と形容されるような逞しい肉体だ。

 しかし、クコたちはそちらにはあまり興味もない。


「いよいよ次ですね!」

「どんな紹介をされるのでしょう!」


 クコとリラの姉妹がわくわくと待つ。


「期待しなくても、あの『司会者』、サツキとミナトのこと好きみたいだから持ち上げてくれるわよ」


 素っ気なく言いつつ、ヒナもサツキとミナトがなんと言われるのか気になっている。


「数日前、突如としてコロッセオに降り立った新星が、ついに『ゴールデンバディーズ杯』ベスト8までのぼってきた! その緋色の瞳が見据える玉座まで、辿り着くことはできるのか! 『波動のニュースター』しろさつき選手! その隣に立つのは、同じくせいおうこくから来た少年剣士だ! コロッセオ史上最速の剣にして未知数の実力を秘めたもう一人のルーキー! 最強を志し、剣の高みを一心に目指す! 『しんそくけんいざなみなと選手! ダークホースが巻き起こす嵐を刮目せよ!」


 紹介を聞いて、クコはうれしそうに胸の前で手を合わせた。


「かっこいいです!」

「辿り着く先は玉座ですよ、サツキ様」


 リラも楽しげにそう言ってサツキを鼓舞する。


「うむ。当然だ」

「次の選手紹介が始まるわよ」


 ルカに言われて、三人もクロノに向き直る。


「ターゲットに迫る姿は、まるで漆黒の流星! その牙は強敵に噛みつき、勝つまで離さない! 勝利への執念が燃え上がる! 『怒りの鉄球』渡練去漫ドネリー・サルマン選手! みんなは、『戦闘民族』と呼ばれるゴルト族を知っているだろうか。ゴルーブル連邦共和国出身、賀唄矛楢楊ガウタム・ナラヤン選手もその一人だ! 一度抜いたら血を吸うまで納めることはできない、と言われるククリナイフはゴルト族の伝統的なナイフなのだ。血を吸って敵を仕留める姿は吸血鬼、『バンパイアソード』ナラヤン選手が、今日もコロッセオに血の雨を降らせる! 前回大会第四位のバディーは、雪辱を果たせるのか!?」


 サルマンの鉄球とはモーニングスターのことである。だから漆黒の流星というわけだ。

 くの字型をした特殊なナイフは、ククリナイフの名でサツキも知っていた。

 顔つきからして、サルマンが西洋人風でナラヤンが南アジア人風だろうか。


「四本の剣を巧み操る四刀流は見せかけじゃない! 同時に踊る四本の剣は、狩りをする獣のように統率されている! 無敵のフォーメーションを持つ『四刀流カルテットブレイド』、原照須備利選バルテルス・ビリエル選手! こちらは剣と盾、騎士の見本のような出で立ちで戦うのは、正々堂々を愛する騎士道の人、『正道の騎士』栄清流採張土エイセル・トールヴァルド選手だ! 前回大会第三位の実力者たちが格の違いを見せつけてくれることだろう!」


 ビリエルがどう四本の剣を使うのか、それは投影された彼を見るだけではわからない。

 トールヴァルドは騎士道精神溢れるのが外見からもわかる、凜々しい顔をしている。


「ついに! あの美形少年コンビが、『ゴールデンバディーズ杯』に殴り込みだー! キラキラ輝く爽やかな笑顔がコロッセオに華を添える! さしずめ『コロッセオの王子様』! 晴和王国の柔術使いは、柔よく剛を制するテクニシャンだ! ゆうよく選手! 長い晴和刀・長巻は、位は良業物。太刀の名前は『くうしゃ』。静かなる闘志を秘めた美しき少年剣士だが、獲物を狩る姿は夜叉そのもの! 見る者を虜にするシグナルを発するのは、『ようしゃ壬生みぶつき選手!」


 会場中から黄色い歓声が上がった。女性のファンが多く、歓声の大きさなら最初のスコットとカーメロ以上かもしれない。

 ヒヨクとツキヒ、年はサツキとミナトとも同じ十三歳。

 晴和王国の『だいおんみょうやすかどりようめいによってコロッセオに挑戦しているコンビで、いずれ二人は『王都の夜の華』とも称される、おうしょうねんげきだんひがしぐみ』に加入するらしい。歌劇団はこの世界でいうアイドルのようなもので、毎晩劇場で歌って踊って公演している。だが、ヒヨクとツキヒの実力は、サツキとミナトは敗北をもって実感している。このコンビに勝つことは、サツキとミナトにとっては大事な目標の一つでもある。

 斜に構えたようにヒナが腕組みして、


「あれが歌劇団の……。確かに美形だけど……好みじゃないわね」

「奇遇ね。私もよ。私からすれば、サツキのほうが可愛いもの」


 ルカの言に、ヒナはつい「あたしも、サツキのほうが……」と言いそうになってぐっと言葉を飲み込む。代わりに、アシュリーが「わたしもそう思います」と言うので、ヒナはむっとして、「とにかくこのコロッセオじゃあ勝利こそがすべてよ! だから負けんじゃないわよ」とサツキに言った。


「勝つさ。次は、必ず」

「だね」


 サツキとミナトの言葉に、クコが「その意気です!」と笑顔を見せる。


「森を愛し森に愛される心優しきエルフ、『森の召喚士』狗論目林羅歩クロンメリン・ラーフ選手は、森に暮らす動物たちを守る資金を集めるため、コロッセオに参加し腕を磨いてきた! 普段はテイマーとして動物や魔獣を育てる傍ら、魔法戦士としては召喚した動物たちと共に戦う! だが、ルール違反じゃないぞ! 選手以外の生き物は本来参加できないが、召喚という形で魔法を使う場合は許可されているのだ! 今日はどんな動物が召喚されるのか、楽しみだ! ラーフ選手の召喚した白馬に乗って戦うスタイルはすっかりお馴染み、白銀のランスを持つ騎士! 『シルバーアロー』辺入吹里譜ベイル・フィリップ選手! 騎馬ですべてを蹂躙する! 選手たちに動物、魔獣が入り乱れる白兵戦は見物だ!」


 ラーフは耳の先がとがっていてやや長い。クコが教えてくれたところによると、これがエルフの外見上わかりやすい特徴らしい。

 フィリップはさっきの騎士トールヴァルドとも違ったタイプの精悍な顔をしたルーン地方の人だ。


「前回準優勝バディーが今年もやってきた! れいくに出身の武闘家コンビは、師弟関係でもあるぞ! 古代そうくにでは広く民間に伝わったという拳法、仙龍シェンロンすいけんの使い手だ! 伝承者は多かったが奥義を極めた者はほとんどなく、今やこの拳法を受け継いだ者は数十人しか残っていない! 達人の域に辿り着いた仙人にして『仙龍シェンロン』の異名を取るのは、老師・えん選手だ! よわい七十五、しかし現役バリバリのコロッセオ最強武闘家は小柄ながら偉大な存在感を持つ! 弟子として側仕えするのは、『仙龍の爪ドラゴンクローおん選手! 老師に成長した姿を見せ、優勝をプレゼントできるのか!」


 小柄で細身の于淵は老体で、本当に戦えるのか思ってしまうほどだが、一筋縄じゃいかないオーラがある。弟子の少年・温韋はサツキとも年が近く、まだ十四歳だ。


「以上! 八組十六名の選手たちが『ゴールデンバディーズ杯』優勝目指して戦っていくぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る