53 『ラストデイスタート』

『司会者』クロノが舞台の階段を軽快に小走りでのぼった。

 舞台中央まで来ると、賑わっている会場をうれしそうに見回した。

 手には、すいきゅうがいという水色の丸い貝殻が握られている。クロノは魔法《アリア・フォルテ》によって、この貝殻に声を吹き込むことで、マイクのように声を大きくできるのだ。

 ここからの司会進行役にみんなが注目する中、クロノはさっそく《アリア・フォルテ》を発動させた。


「みなさーん! 今日も来てくれてありがとうございます! 開始まであと一分を切りました! ダブルバトル最大の大会、『ゴールデンバディーズ杯』も二日目の本日が最終日! 盛り上がっていこうぜ!」


 わーっと波のように声があがってゆく。

 コロッセオに訪れる人々はそのほとんどが『司会者』クロノの存在を知っているから、いよいよ始まるのかと期待しているのだ。


「それでは、残り五秒! 五、四、三、二、一……『ゴールデンバディーズ杯』二日目、開幕だー!」


 再び、わーっと割れんばかりの歓声が響いた。


「さて! まずはご挨拶をさせてください! おはようございます、昨日に引き続き、この『ゴールデンバディーズ杯』の司会進行を務める保見黒野フォーミ・クロノです! ワタクシがすべての試合の実況、審判をしますので、よろしくお願いいたします! ということで、細かい説明はなしでいかせてもらうぞー!」


 ひとたびクロノが声をかければ、会場は賑やかに応える。

 初日の昨日コロッセオに来られなかった人も、説明など求めていなかった。この世界のおける最大の興業であるコロッセオでは、ルールもよく知られているし、なによりみんな早く試合が見たくて仕方ないのだ。


「さあ! 今日ここに集う魔法戦士たちは、すでに大会ベスト8が決まっている! つまり、トーナメントを勝ち残った猛者もさしかいないということだー! あの幕を見てもらえるだろうか!」


 クロノは、コロッセオの壁の上部を手で示した。

 そこには白い幕が張られており、幕にはトーナメント表が投影されていた。映像を投影する科学技術がないこの世界で、あれは魔法によるものだった。


「ご覧の通り、前回大会のベスト4と、昨日各ブロックを勝ち抜いた四組が戦い、勝者が今大会のベスト4となる! また、そこで勝った四組は来年のシード権が確定するぞ! そして、準決勝の組み合わせはAブロックとBブロックの勝者、CブロックとDブロックの勝者がそれぞれ戦う! この戦いで勝てば、ついに決勝戦に駒を進めるのだが、当然、優勝バディーは一組だけ! その一組が、『バトルマスター』ロメオ選手とレオーネ選手に挑戦する権利を得られるのだー!」


 ゴールデンバディー・ロメオとレオーネに挑めるのは、来年の『ゴールデンバディーズ杯』の二か月前までの間、互いの都合がつけばいつでもよいことになっている。


「このトーナメントでは、準決勝で敗れた二組のバディーは共にベスト4ということになってしまうが、三位決定もしっかり行っていくぞー! そうなると、試合は全部で八回。十二時からの一時間は休憩時間とさせてもらい、十三時から午後の部となる。スケジュールはこうなっているから確認しておいてくれ」


 クロノが幕を示し、タイムスケジュールが一覧で表示される。

 クコが聞いた。


「つまり、このあと九時半から第一試合が行われて、サツキ様は十時からの第二試合に出るんですよね」

「うむ。前の組の試合が早く終わっても、俺たちの試合開始時間は変わらない。決勝まで行くことを考えると、時間の余裕があって助かるよ」


 サツキは今朝受付のときにタイムスケジュールを聞いていたのだ。昨日は試合が終わったらすぐに次の試合が始まっていたから、まるで別の大会みたいなゆとりを感じる。

 ヒナは腕を組んでつぶやく。


「ふうん。二日目は時間がきっちり決まってるのね」


 九時半から第一試合。これはAブロックのシードバディーと挑戦者バディーの戦い。

 十時から第二試合。Bブロックのシードバディーと挑戦者バディー・サツキとミナトの戦い。

 同じように、十時半からの第三試合はCブロック。十一時からの第四試合はDブロックとなり、十一時半からの第五試合はAブロックの勝者とBブロックの勝者が戦う準決勝だ。

 その後お昼休憩を挟み、十三時にロメオとレオーネが登場するとサツキは聞いていた。

 だから、第六試合は十三時半からスタート。CブロックとDブロックの勝者による準決勝になる。十四時からは三位決定戦。十四時半から決勝戦となるのである。


「さあ! それでは、選手紹介を始めるぞ!」

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