51 『リーズンホワイ』

 ミナトの切れ長の瞳が光を帯びる。

 玄内からの宣告で、ミナトは自分にとっての『ゴールデンバディーズ杯』の意味が今初めてわかった思いがした。


「おまえの目標の一つでもあったな。最強の騎士と一戦交えることは。アルブレア王国での最終決戦において、その役割はおまえが担うのがベストだ。サツキはブロッキニオ大臣を相手にしなきゃならねえし、天才忍者のフウサイでさえ暗殺できる相手ではないだろうしな。で、おれは自分の身体を取り戻してからじゃねえとグランフォードとやり合えるかわからねえ」

「つまり、こんなところで負けているようじゃァ、グランフォード総騎士団長には見向きもされない。あの人と戦うことさえできなくなるってことですか」

「ああ。そういうわけだから、危うくなったら修業よりも勝利を優先させろ」

「はい。そうさせていただきます」


 サツキは少しだけ笑いたくなった。

 修業よりも勝利を。

 それは、本気でやれば勝てると思っているからこそ言えることなのだ。


 ――ミナトが強いのはわかっているが、そこまで言えるなんて、二人共……世界中の強者が集まるコロッセオをなんだと思っているんだか。いや、でも、こんなことを今言う意味って……。


 対戦相手が隠している奥の手や魔法を見通すことができずとも、勝つことを優先させる場面も必要だ。それには同意するし、ミナトに箔をつける目的はサツキにもあった。


 ――ミナトに箔をつけるって目的を俺が言わなかったのは、ミナトと二人ならどんな相手にも勝てると思っていたからだ。でも、先生も俺の見立てというか、この考えはわかっていたはずじゃないか?


 逆に考えると。

 それなのに、あえて玄内が言ったのには、理由があるということである。


 ――であるならば、先生が勝つことを優先しろと忠告するほどに、今日戦う相手が強いことを意味するのではないだろうか。つまり俺が思っている以上に相手は強いのだ。きっと。


 チラとミナトを見る。玄内の表情も見る。

 二人共、そろって表情がわかりにくい。ミナトはいつも余裕そうにニコニコしているし、玄内はダンディーで渋い無表情だ。


 ――もう一つ。予想できることがある。勝つよう注意喚起したのは、ミナトに対してのみ。これは、俺だけなら負けていいってわけじゃない。ミナトに秘密があるからだ。それというのも、ミナトにも奥の手やさらに強い魔法があるということ!


 つまり、玄内はミナトが奥の手を使わなければ勝てないかもしれないと警告している。そうサツキは推測した。

 この魔法世界、たとえ味方だろうと、自分の魔法のすべてを教えるのはリスクであり、普通はしない。ほとんどすべてをさらけ出している士衛組でさえ、ミナトと玄内はサツキに教えていない魔法があり、それは一つにミナトがしんりゅうじまで玄内にもらった魔法もそうだ。クコだって、サツキとリラにしか打ち明けていない魔法もあるのだから、ミナトにあと一つ二つそういった魔法があってもおかしくない。


 ――まあ、これ以上考えても仕方ないことだよな。とにかくこれで、ミナトはいざとなれば、俺と足並みをそろえることもなく勝利をもぎ取りに行くだろう。その時俺は、なにかできるだろうか……。


 三人で《無限空間》を出る。今朝は玄内にも少し組み手の相手をしてもらったところもあったので、玄内は人間の姿だったのだが、《無限空間》から一歩外に出ると、再び亀の姿に戻ってしまう。

 馬車を抜けてまたイストリア王国の首都マノーラにある、ロマンスジーノ城へと戻って来た。

 そして、食後、サツキたちは出発した。

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