49 『マインドセット』

 レオーネとロメオが部屋で二人しゃべっている。


「それにしても、自分たちで考えてそんなことをするようになるなんて。これもサツキくんたちのおかげかな」

「ああ。以前のリディオとラファエルには見られなかった変化だ。成長といっていい」


 と、ロメオは弟たちの成長をうれしく思った。


「たった一年で組織の情報機関を司るようになったけど、今まではオレたちの仕事が少し減るだけだった。それが情報をこうも操るようになっていく。情報の価値についても考え、それを仲間に伝達する。おもしろいものだ」

「ああ。一年前にあの二人が組織のために情報機関を作りたいと言ったときには驚いた。あの頃、二人はまだ十歳だったからな。それが今では我々に欠かせない存在になっている」


 一年前、リディオとラファエルは組織に憧れるだけの少年たちだった。兄のロメオみたいになりたいリディオと、ヴァレンの役に立ちたいとだけ考えているラファエル。

 二人はレオーネとロメオを側で見てきて、いくつもの事件を通して『ASTRAアストラ』の役に立つにはどうすればよいかを考えた結果、情報機関を作ることを導き出す。

 その後、レオーネとロメオの仕事を手伝いながら情報をまとめる作業を覚え、レオーネとロメオの手がかからなくなってくると、組織内から『ISコンビ』と呼ばれるようになった。そして、今ではさらに、情報の価値についても考え、サツキたち士衛組のために工夫まで始めたのである。

 ロメオは兄として感慨深い気持ちになると共に、二人の成長を身内として喜び、組織としては頼もしく思った。


「レオーネ。今回のリディオとラファエルの情報の取捨選択は、よい勉強になると思わないか?」

「それはどっちにだい?」


 聞き返されて、ロメオは微笑んだ。


「確かに、どちらにも、だな」

「そう、どちらもだ。サツキくんたち士衛組にとっても、リディオとラファエルにとっても」

「まず、リディオとラファエルにとっては、情報の価値を見極めてサツキさんとミナトさんに伝えるわけだから、それぞれの情報の重要性と、それぞれの情報にアクセスする難易度を理解し、選ばなければならない」

「そうだね。今までリディオとラファエルが持たなかった視点で情報を見ることになる。情報のレベルを把握することは、情報屋にとっては大切だ」

「次に、サツキさんたち士衛組にとって勉強となるのは、ラファエルやミナトさんが言っていた通り。知っている情報でいかに対策するか、知らない情報があることを意識した行動ができるか、だ」

「ああ。サツキくんたち士衛組にとっては、知っていることと知らないこと、その両方があると自覚して行動する予行演習となる。それはいずれ引き起こされるアルブレア王国での最終決戦に必ず役立つからね」

「大きないくさであればこそ、まったく未知の敵と遭遇するケースもよくあるからな。しかし、アルブレア王国での最終決戦に手を貸すのはワタシたち『ASTRAアストラ』だ。『ASTRA』の情報網に引っかからない情報はおそらくかなり少ないものとなろう」

「だな。オレとロメオが直接調べるものも含めれば、穴は少ない。だが、それでも完璧は無理だ。これはサツキくんが情報戦について考える上で、いい勉強になるね」


 二つ名を『千の魔法を持つ者』。

 そう呼ばれるレオーネに調べられない情報はあまりない。しかしどうしても不足は生まれる。

 相方のロメオはそれも意識しているからこそ、個人やバディーとしては『バトルマスター』と呼ばれ、『ASTRA』としても『無敗の総督』と呼ばれてきた。

 これから大きな戦いをしていくサツキにも、そうした心構えは必要なのだ。

 アルブレア王国での最終決戦では、その不足を考慮してサツキは作戦を考えなければならない。

 戦闘中、情報の流動により作戦が変更することもあるだろう。

 心構えを作るだけでなく、様々な可能性を考えるきっかけにもなり、作戦を練る修業にもなる。

 サツキにとって今までにない修業の場と時間になっているイストリア王国での日々は、逆に言えば、サツキが大きな戦いに臨む時が近づいていることも意味していた。


「まるでサツキくんがその目的を遂げるために、ステップアップする場所が一つずつ用意されているみたいだよ」

「そうかもしれないな、レオーネ。だが、最終決戦はさておき、まずは明日の試合だ」

「ふふ。そうだった。ロメオ、サツキくんとミナトくんはどこまでいけると思う? オレたちに挑戦するところまで、来られるかな?」

「ワタシはそうあってほしいと思ってる」


 レオーネとロメオは、明日の大会に期待する。

 データの選定をしたリディオとラファエルがサツキとミナトに情報を渡して、二人が対策を練り、夜は深くなっていった。

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