48 『データソート』

 夕食の席では、アキとエミも戻ってきていた。

 レオーネとロメオ、ヴァレンとルーチェもそろって、またみんなでの賑やかな食卓になる。


「明日は、レオーネさんとロメオさんも来るんですよね?」


 ミナトが聞くと、レオーネが爽やかな微笑で、


「ああ。ただ、午後からだね。ベスト4が出そろったらみんなの前に現れる」

「初日の今日に比べ、明日は時間的な余裕もあります。午前の試合が終わってお昼の休憩を挟み、ちょうど午後の一時にワタシたちが舞台に上がります」


 と、ロメオが言った。

 確かに今日は休憩という休憩はほぼなく、司会進行のクロノは忙しそうに捌いていた。だが、明日は試合に出場する選手の数も限られるし、試合と試合の間隔も必要だから、時間に余裕がある構成になるのだ。

 アキとエミは今日途中参加だったが、明日はずっと応援してくれるらしい。


「ボクとエミも、最初から応援するからね!」

「ロマンスジーノ城を出るのもいっしょだよ!」


 二人には、必勝祈願と安全祈願のおまじないの魔法がある。どれほど効果が確かなものなのかはわからないが、不思議とこれをしてもらって負けたことはない。だからサツキとしても心強かった。

 しかしヴァレンは来られないとのことだった。


「悪いけど、明日もアタシは仕事なの。でも、応援はしているわ」

「朝も早くお会いできないかもしれませんので、先に言わせていただきます。頑張ってくださいませ、サツキ様、ミナト様」


 メイドのルーチェは丁寧にエールを送り、サツキとミナトはありがとうございますとお礼を返した。

 リディオが明るい声で、


「おれたちも応援に行くぞ! サツキ兄ちゃん、ミナト兄ちゃん!」

「せっかくベスト8に残ったわけですしね」


 実はミナトには心を開いているラファエルなので、表情は普段の無愛想なものだが、気持ちの上では応援したいと思ってくれているようだった。

 ミナトが聞いた。


「あのさ、明日のスコットさんとカーメロさんについて、情報をもらってもいいかな?」

「情報ですか。もちろんいいですよ。情報収集と解析は、ボクら『ASTRAアストラ情報局』の仕事ですから」

「ありがとう。ラファエルくん、リディオくん」

「ミナトさんがそれを頼むなんて、めずらしいですね」


 ラファエルは意外に思った。ミナトはあまりに強いから、相手の情報になど頓着しないと思うのだ。もし聞くとすればサツキのほうで、サツキなりに意図があってのことだと考えていた。


「いやあ、今日対戦したマドレーヌさんとバージニーさんが助言をくれたんです。対策することも修業になるって。考えたら、アルブレア王国での最終決戦で、僕たち士衛組は相手のことを可能な限り調べ尽くすことになる。まったく情報がない相手と戦うケースのほうが少ないから、ちょっとは知っておいたほうがいいかなって思ってね」

「なるほど。一理あります」

「さすがだな、ミナト兄ちゃん!」


 二人は納得して、ラファエルがサツキを見る。基本的な最終決定をするのはサツキだとわかっているから、サツキの了解を得たいのである。


「俺も教えてもらえると助かるよ」


 それからラファエルが提案した。


「わかりました。しかし、まったく情報がないわけじゃなくとも、情報がすべて完璧に取りそろえられている状態で最終決戦に望めるわけでもない。そこで提案です。ボクらが情報の選別をしてお伝えするのはどうでしょう」

「つまり、あえて穴のある情報を教えてくれるということか」

「それは言葉の綾というもの。ただ、相手の奥の手など一部を隠すだけです」

「おもしろい。それでお願いしてもいいかね?」


 サツキとラファエルのやり取りを、ミナトとリディオは単純におもしろがっていた。


「おう! いいぞ! おもしろそうだなー!」

「だねえ、なんだかワクワクしてきたよ」


 前回ベスト4の選手たちの情報など、割と簡単に調べられるだろう。しかし、この大会に向けて用意しているとっておきの隠し球まで調べるのはほとんど無理だ。

 それはアルブレア王国での最終決戦にも言えることで、警戒心の強いブロッキニオ大臣側もかなりの情報を隠し、守り抜き、情報が完全ではない状態で戦うことになる。


「かしこまりました。それでは、そのように。二十三時にデータをお渡しします」


 そんなわけで、サツキとミナトはラファエルとリディオに情報をもらえることになった。

 ただし、不足のある情報を。

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