47 『ポリティシャン』
「その話、裁判には関係ないわよね?」
ヒナの問いに、ラファエルが平然と答えた。
「ええ。関係ないでしょうね。少なくとも、直接的には。もしなにかあるとすれば、報告しましょう。それより、盗み聞きなんて趣味が悪いですね」
「聞かれたくないことなら人に聞かれないところでするか、もっと小声でしなさい。どうせ、あたしの魔法も知ってるんでしょう?」
皮肉を返すヒナにも、リディオが明るく笑って、
「気にしなくていいぞ。ラファエルはもうすっかり士衛組を信用してるから、廊下でも平気で話すんだ。レオーネ兄ちゃんといっしょで、一旦信用したらガードがゆるむからな」
「余計なことは言わなくていい」
とラファエルに注意されるが、リディオはニコニコしている。
「でも、裁判も大変だよな。裁判官の五人のうち二人は買収されてるから、あと三人をどうするかだもんな」
それを聞いて、ヒナはドキリとした。
「え? そんなことになってんの?」
ヒナは不安で落ち着かない気持ちになりながら聞いた。
寝耳に水のヒナにも、ラファエルが冷静に言った。
「いくら論理を固めても、裁判官をどうにかしないとお話になりませんからね」
「なによ、それ。証明しても意味ないってこと?」
「無意味ではありません。これまで信じられてきた『事実』が偽りだとわかった今、理屈にどう屁理屈をつけて真実を押さえ込むか。そして、『事実』を真実でひっくり返させる場を与えないかが重要になるということです」
「もう明後日なのに」
と落ち込むヒナに、リディオが陽気に言う。
「玄内先生とサツキ兄ちゃんが手を打ってるけど、どうなるかだな。まだ微妙って感じだぞ」
「先生もサツキも、そんなことまでしてたんだ……」
「おれたちもレオーネ兄ちゃんとロメオ兄ちゃんの指示で調査はしてるから、明日の夜まで待っててくれ。夜には裁判官たちがどっちにつくかがおおよそハッキリするからな」
リディオは楽観的に見ており、ラファエルはただ冷静だった。
「あなたが気にしても仕方ない部分だから、二人共言わなかったんだと思います。常識は科学ではなく政治が作るものですからね」
「……」
口をつぐむヒナに、ラファエルが言葉を続ける。
「裁判官がどちらにつこうと、あなたのやることは変わらないはずです。あとは士衛組が有名になるよう明日の試合の応援を頑張ることですね」
「わかったようなこと言って。可愛くないわね」
なにかを知っているらしいラファエルだが、ヒナにはなにをどう追求していいかわからない。しかし、士衛組の知名度を上げるのは大事なことみたいな口ぶりが気になる。あるいは士衛組の人気か。それによって、なにかあるのだろうか。
考えていると。
参番隊が後ろからやってきた。
「ヒナさん。なにをしているんですか?」
チナミに聞かれるが、リディオが答える。
「ちょっとおしゃべりしてたんだぞ。もうご飯できてるみたいだし、みんなで行こう!」
「そうですね! 今日もどんなおいしいお料理が出てくるのか楽しみです」
「うん。楽しみ」
リラとナズナが笑顔で言って、六人で食事に向かうのだった。
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