45 『ディスカバリー』
試合を見てファンになったという夫婦や女性たちに声をかけられ、別れたあと、サツキはリラにささやいた。
「クコはすごいな」
「はい。お姉様はだれとでも仲良くなれるんです」
「こうやって、士衛組を知ってもらい交流する機会って、大事なのかもしれないな」
それは、特にアルブレア王国に上陸したあとにやれるといいのかもしれない。
国家を取り戻すためには、絶対にブロッキニオ大臣らと武力による衝突が避けられない。そのためには、
現状、ブロッキニオ大臣は秘密裏に国王夫婦を幽閉している。そのため国民の前に姿を見せない国王だが、それでも国王を擁している事実がブロッキニオ大臣側にはある。そんなブロッキニオ大臣の勢力と戦をするには、相当の人気と知名度と名目がなければ、たとえ王女姉妹の名の下にであろうと人は容易に集まらない。
名目はこの先にも作っていくとして、今は人気と知名度を押し上げる活動が欠かせないのである。
その一環として、市民との交流もあると気づかされた。情報が人づてに広がる時代であり環境であるこの世界では、サツキが思っていたよりも効果がある活動なのだ。
「……なるほど。では、それはリラの役割になるかもしれませんね」
リラのつぶやきが聞こえなかったサツキが、「?」と首をかたむけると、リラはにこりとして言った。
「お姉様もサツキ様も、いつもいろんなことに考えを巡らせていてさすがです」
「それが俺の目指す場所へ行くための工程だからな」
サツキはいつも、天下というものを見ている。
この天下をどう取るのか、考え続けているのだ。
そうした最終目標のために過ごすコロッセオでの修業の時間にも、新たな発見をできることもある。
サツキはまた一つ勉強できた想いであった。
――それに、ミナトは強くなりたい一心で剣と向き合っている。そのミナトには、アルブレア王国最強の騎士、グランフォード総騎士団長と一騎打ちをしてもらうことになるのだが……。
ミナトもそれを望み、強者との戦いを心待ちにしている。
――グランフォード総騎士団長対ミナトというカードに注目が集まるくらい、ミナトの強さが宣伝されれば、ブロッキニオ大臣側との決戦で俺たち士衛組につく人間も増える。
必ずしも勝てるわけでなくともいい。
だが、『絶対に負けるとわかりきっているような、期待もされないカードを用意する陣営』につく人間など、そうそういない。
この『ゴールデンバディーズ杯』は、ミナトの強さを知ってもらう場所になってもらわなければならないのだ。
こうした長期戦略的意図は、ミナトに伝えていないし本人が知るまでもないことだが、様々な思惑や計算がここでの修業『ゴールデンバディーズ杯』にはあった。
ただ、サツキは計算以上にミナトと戦えるこの時間を大切したいと思っているし、効果を見込んで参加している現在、一心にミナトと共に優勝することを考えていた。
「帰ったら少し修業だな」
「お。サツキ、やる気だね」
ミナトがうれしそうに微笑み、サツキは言った。
「まだ今日は本気出せていないだろ? 夕飯までにはヘトヘトしてやるよ」
「楽しみだなァ。じゃあ、早く帰ろう」
サツキはそれなりに疲れているのだが、ミナトは本当にまだまだ実力を出せずに物足りなかったらしく、サツキをせかす。士衛組の帰り道は、賑やかで急ぎ足になったのだった。
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