44 『ファンサービス』

「また明日も頑張ってね、ボクも来るからさ」

「今日はゆっくり休むんだよ、二人共」


 シンジとアシュリーにそう言われて、サツキとミナトもはいと答える。


「じゃあね」

「ばいばい」


 二人とも別れると、えいぐみだけでの帰路となった。

 コロッセオから出てくる人は、もうまばらである。

 夕陽を浴びるコロッセオを振り返り、クコは笑顔を浮かべてまた前を向いて歩く。


 ――今日の試合、すごかったです。サツキ様、本当に強くなってる。レオーネさんに潜在能力を解放してもらったこと、ロメオさんにグローブをいただいたこと、それらを生かしてなお、自分の力で強くなっていっています。それも、わたしのために。


 今朝、アルブレア王国を守るためにも強くならなければならないと話してくれたばかりだ。

 その道のりの中で、ヒナの裁判のため、さらにはミナトの目標のために、サツキはコロッセオに挑戦していると話した。

 サツキとミナトの活躍で知名度が上がれば、士衛組の宣伝活動になる。修業の場でもありながら、士衛組の支援者を作る場にもなっているのだ。


 ――サツキ様は、いつもずっと先を見据えて行動する人ですが、わたしにはその成長の早さもまぶしいです。わたしも強くならなければいけませんね。最初に、わたしの国を守ってくださいとお願いしたとき、その代わりにわたしがサツキ様のことを守ると約束しましたから。


 クコが「帰ったら修業を頑張りますよー!」とやる気になっているところで、士衛組に声がかけられる。

 五十がらみの夫婦だった。


「やあ、キミたちは。サツキくんとミナトくん」

「今日見てましたよ。あたしも主人もすっかりファンになってしまいました」

「応援しています」

「頑張ってくださいね」


 サツキとミナトは、こうして街を歩いているときに直接ファンに声をかけられるのは初めてだった。

 快く応じてありがとうございますと握手をすると、頭の良いクコにはここも宣伝活動の場だと気づく。笑顔でぺこりとお辞儀をする。

 夫婦に「こちらは?」は聞かれて、サツキは紹介する。


「こちらは士衛組の仲間です。応援に来てくれたんです」

「士衛組……ああ、確かヴァレンさんと同盟を結んだっていう」

「まあ! すごいわ、あのヴァレンさんと同盟だなんて」


 驚く夫婦に、クコが世間話をするようにしておしゃべりを楽しんだ。

 会話も終わる頃には、夫婦が「士衛組は正義の味方って聞いたことがあったけど、こんなに気さくな人たちなんだね」と言ってくれたし、「サツキくんとミナトくんだけじゃなく、士衛組も応援するわ」とも言ってくれた。

 このすぐあとには、若い女性のファンもサツキとミナトに声をかけてくれた。三人組だ。


「サツキくんとミナトくんだよね? かっこよかったよ」

「間近で見ると、思ってたよりかわいい顔してるね」

「おもしろい試合してるから、今日でファンになっちゃった」


 と言って、またクコが世間話をしてくれた。

 そこでも、「へえ、士衛組っていうんだ」と士衛組を知ってもらい、「正義の味方? なんか可愛い。じゃなくて、偉いね!」と褒めてくれたりもした。


「じゃあまたね!」

「応援してるよー」

「ファイトー! サツキくんとミナトくんも、正義の味方の士衛組のみんなもね」


 女性ファン三人組が去って、ヒナは腕組みしてフンと鼻を鳴らした。


「まったく、気安くおしゃべりしちゃって。親戚かってのよ。士衛組のことも遊びじゃないちゃんとした正義の味方って理解してた? あれ」

「まあ、いいじゃないですか。士衛組が有名になるのは歓迎です」


 チナミにそう言われて、バンジョーも、


「そんじゃあ、景気よく旗でも振って帰るか! そんでロマンスジーノ城に凱旋だ!」


 と旗を取り出し、ヒナに「恥ずかしいからやめなさい」と止められている。

 そして、ヒナの《うさぎノ耳》が、遠ざかってゆくさっきの女性のファンたちの会話を拾った。聴力が上がって、常人なら聞こえない距離でも聞こえるのだ。


「ヒヨクくんとツキヒくんほどイケメンじゃないけど、結構可愛かったね」

「ねー」

「アタシ、サツキくんのファンになっちゃったもん。まあ、ヒヨクくんとツキヒくんと戦うことになったら、ヒヨクくんたちを応援しちゃうんだけどね」


 それを聞いて、ヒナは気にくわない様子で、「だったらサツキとミナトに近づくんじゃないわよ」と悪態をついた。

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