41 『チームディビジョン』

「隠していること?」


 ポーカーフェイスで復唱しながらも、バージニーは心弾ませる。


 ――お。来たね。もしかして、気づいちゃってたりした?


 楽しみに待っていると、サツキは言った。


「俺はあの試合で、《ダメージチップ》について、いくつか引っかかることがありました。主に三つです」

「うんうん」

「一つ目……試合中の《ダメージチップ》は、いつどういった条件を満たして発動したのか。二つ目……チーム制のダメージ管理は、いつどうやってそのチーム分けをしていたのか。三つ目……なぜ、自分だけ自分への攻撃が可能なのか。つまり、なぜ自傷ダメージを設定したのか」

「なるほどね。うんうん、アタシが説明しなかったところ、よく見てたね」

「この中で、二つ目と三つ目が特に気になっていました。一つ目は、まあなんでもいい。戦術的な意味はない。が、二つ目と三つ目は、条件次第ではかなりひどいペテンができますよね」

「おお! ほかの魔法戦士たちどころか、司会のクロノさんさえ知らないところなのに。今回使わなかった戦法まで気づいちゃったのかしら?」


 そんな戦法については初耳なシンジは「え、なにそれ」と驚いているし、この場にいる面々も目をみはった。


「結論から言います。チーム分けは、発動時、バージニーさんが自由に変えられるんじゃないですか?」

「うん、できるよ。ちなみに、《ダメージチップ》は触れた相手をその効果対象にすることができます。さっきの試合では、最初の握手がそうだね。チーム分けは、触れたときにアタシが選びました。それで?」

「であれば、お二人はペテンみたいな戦法で試合をすれば常に勝てていたはずだ。つまり、三対一でチーム分けをして試合をする戦術です」

「どういうこと? 二対二のダブルバトルで、三対一?」


 数ヶ月コロッセオを見てきたシンジには、サツキが急になにを言い出したのかがわからなかった。

 マドレーヌはクールに「ひゅー」と口笛を吹いただけだ。しかし、これでサツキの予想が当たったことを一同は理解する。

 クコが口を開いた。


「つまり、こういうことですか? たとえるなら、わたしとルカさんがバディーを組んでマドレーヌさんとバージニーさんバディーと戦ったとします。その際、わたし一人対ルカさんとマドレーヌさんとバージニーさんの三人がチームになって、《ダメージチップ》が管理される」

「うむ。観客はおろかクロノさんさえ、二対二のダブルバトルが『そのチーム分けでダメージ管理されながら行われている』と思っている。だが、実際は『ダメージ管理のみ三対一』の構図で行われるということだ」


 試合はいつも一対一ずつの割り振りで戦うパターンだった。サツキやミナトを相手にしたときもそうしていた。サツキがバージニーを相手にして、ミナトがマドレーヌを相手にしたように。

 バンジョーが難しい顔で首をかしげる。


「だったらどうなるんだ? クコ一人だけが不利になるのか?」

「いいえ。わたしが不利なのはもちろん、ルカさんも有利とは言えません。だって、味方チームのお二人を攻撃してもダメージを与えられませんから。体力を使わされるだけ……敵の手のひらの上で踊っているだけです。つまり、お二人のうち片方は、ルカさんと戦っているフリでいい。そういうことですね」


 クコがそう言うと、サツキは言った。


「うむ。さっきの例で言えば、ルカ相手にマドレーヌさんは戦っているフリをしているだけで、本当にダメージの削り合をするのはバージニーさんとクコだけということだ」


 最初に、チナミがつぶやいた。


「まさか」

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