39 『タッチアウェイク』
サツキはまず、バージニーの側に歩いていった。
片膝をつき、バージニーの肩に触れる。
「もし、《
「どうだい?」
ミナトが後ろからやってきて、様子を見る。
バージニーは動かないかと思われたが、ピクッと指先を動かし、それから目を開けた。
「あれ? アタシ……ええっと、そうだ、サツキくんにやられて……もう丸一日経っちゃった……わけないよね。どういうこと?」
視界に入ったサツキの顔を見て、バージニーが聞いた。歓声と空気から、彼女は今が試合直後だとわかって質問したのだ。
「俺はこの《
「すごっ! ロメオ様みたい!」
レオーネのことは「レオーネ様」と呼んで慕っている様子のバージニーだったが、ロメオのことも様付けしているらしい。
「ロメオさんにいただいた魔法道具で、ロメオさんの魔法が付与されていますから」
「さすがサツキくんだね」
「本当に効果が見込めるかわからなかったので、ミナトを気絶させられるわけにはいかなかったんです」
「そっか。でも、復活させられるってわかってたら……ううん、あえて分析してアタシたちのことをよく知ろうって思って戦ってなかったら、もっと余裕で勝てていたんだね。サツキくんたちは」
その通りだった。しかし、それはミナトの力があってこそで、ほとんどミナト一人で成せることでもある。だからサツキは謙遜しかできなかった。
「そんなことはありません。勉強になりました」
「
ふふふっと笑っているバージニー。
この世界では、
ミナトがサツキの肩に手を置く。
「さあ、マドレーヌさんも治してあげようぜ」
「うむ」
サツキはマドレーヌの肩にも手を触れる。
すると、マドレーヌも目を覚ました。
「ん、なんだ……? ここは……コロッセオ。気を失っていたのね。て、あんたたち!」
ぎょっとしたマドレーヌに、バージニーが笑顔で言った。
「今は試合直後だよ。サツキくんがアタシたちを気絶状態から治してくれたの」
「アタシたちを……ってことは、やっぱり負けたんだね。ワタシら」
「ごめんね。やられちゃった」
片目を閉じて謝るバージニーにも、マドレーヌは苦笑を返す。
「いいよ。実力が足りなかったから負けただけだからね。そして、この子たちが強かった。ベスト8、おめでとう」
「キミたちにはなにかあるって感じたよ。頑張ってね!」
サツキとミナトは笑顔で「ありがとうございます」と返した。
「やったね、サツキくん!」
「すごかったよ、ミナトくん!」
わーい、とバンザイしながら喜んでいるのはアキとエミだった。
「アキさんエミさん、来ちゃったんですかァ。まいったなァ」
勝手にここまで入ってきてしまうアキとエミを見て、ミナトはおかしくなって笑っていた。
「俺たちも戻りますから、いっしょに戻りましょう。次から勝手に来ちゃダメですからね」
「はーい」と声をそろえて素直な返事をするアキとエミ。
自由な人たちだなと思い、サツキは優しく苦笑したのだった。
なんだか騒がしくなっているサツキたちのほうへと視線をやった『司会者』クロノは、気絶して丸一日起きないはずのマドレーヌとバージニーが目覚めていることに気づき、驚きの声をあげた。
「なんということでしょう! 次の試合に移行しようと思っておりましたが、なんとなんと、マドレーヌ選手とバージニー選手が起きています! 《ダメージチップ》の条件により、二人合わせて1000点を受けたマドレーヌ選手とバージニー選手は丸一日気絶したままのはずです。しかししかし、なぜか目を覚ましているようです! ちょっと話を聞いてきましょう!」
タタタっと舞台の階段を駆け下りて、クロノはバージニーに問いを向けた。
「バージニー選手、気を失っていたはずが、《ダメージチップ》の効果で丸一日目を覚まさないのでは……?」
バージニーはチラとサツキを見上げた。
サツキの魔法について話していいか、アイコンタクトで尋ねたのだ。
ここまでの試合でも、サツキはカルロスの《ビー・スティンガー》を打ち消しているし、隠すことでもない。
サツキがうなずくと、バージニーはクロノの問いに答えた。
「はい。でも、サツキくんがアタシたちにかかっている魔法を消し去ってくれたんです。助かっちゃいました」
「なるほど!」
クロノはそれから会場全体に言った。
「どうやらサツキ選手が魔法を打ち消すことで、《ダメージチップ》の効果を消し去り、バージニー選手とマドレーヌ選手の目を覚ましたようです! 試合後にも魅せてくれたサツキ選手に拍手! おかげで医療班の仕事が減りました。このダークホースはこんなことまでできるのかー!? すごいぞ! いやあ、本当はもっとお話をうかがいたいところですが、次の試合にまいりましょう。せっかく目覚めたことですし、バージニー選手とマドレーヌ選手もこのあとの試合を楽しんでいってくださいね」
これにはバージニーが代表して「はい」と笑顔で答えて、クロノは次の試合の進行に移っていったのだった。
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