32 『チャンスタイム』

 バージニーが右手を上げた。


「チャンスっ、ターイム!」


 この宣言に、大勢の観客たちがわーっと盛り上がった。

 多くの観客はバージニーのこの宣言がなんなのかわかっているようで、知らない一階席のクコたちは頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


「なにか始まるみたいですけど」

「いったいなにが……」


 リラがつぶやく。

 バンジョーとアキとエミはわからないながらもみんなに合わせて「いえーい」とハイタッチしている。

 ヒナが「わからずに喜ぶなー!」とつっこんでいた。

 チナミはそんなヒナたちを一瞥して、ブリュノに聞いた。


「魔法、ですか?」

「そうだね。《ダメージチップ》はダメージを管理する魔法だが、この魔法にはちょっと特殊な『技』と呼べるものもある」

「技っていうと、攻撃ですか?」


 アシュリーも尋ねる。

 ブリュノはもう説明する気がないのか、シンジに目線をよこした。

 これを受けて、シンジが言った。


「これから始まるのは、ポーカーだよ」


 クコたちは一斉に、「ポーカー?」と首をひねることになった。




 バージニーはさっそく説明を始めた。


「これは、《ポーカーチャンス》です。今あなたたちが受けているダメージを賭けて、増えてしまうか減らすことができるか、ポーカーで決めます。ちなみに、ミナトくんがすでに受けてしまった250点は換金しちゃったから戻せないけど、換金していない分は二人合わせて120点あります。この120点のダメージを賭けるのです。あなたたちが勝てば役によってダメージを減らせて、最大で120点全てのダメージを帳消しにできます。逆に、負ければダメージが倍の240点になります」

「バージニー、役によるダメージの減少幅」


 マドレーヌに促され、バージニーは点数解説をした。


「ちなみに、ワンペアだとチップはそのまま据え置き、と言いたいところだけど、おまけで10点だけ減らしてあげる。で、ツーペアなら20パーセント減で24点を取り除ける。スリーカードなら30パーセント減、ストレートは50パーセント減、フラッシュは55パーセント減、フルハウスは65パーセント減、フォーカードは70パーセント減、ストレートフラッシュは75パーセント減、ロイヤルフラッシュは85パーセント減、そしてロイヤルストレートフラッシュで100パーセント減……つまり完全にダメージはなくなるわ。以上。どうしますか?」

「挑戦する?」


 マドレーヌが問いかけを重ねる。

 言葉がすぐに出てこないサツキとミナトに、クロノが口を挟む。


「このポーカーに不正はありません! 完全に運の勝負! 勝てば損をせず、ロイヤルストレートフラッシュを出すと現状の250点のままでいられるが、負ければ120点が倍になって240点! ミナト選手がこれを換金されたら、その時点で250点と240点を合わせて490点となり、あと一撃でも食らえば戦闘不能状態になってしまいます! なお、負けとはどの役もそろわなかった状態のことだ! ただし、これはチャンスタイムであって、受けなくても構わないぞ! 自分たちで判断してくれ!」


 サツキとミナトは短い会話をした。


「やるか? ミナト」

「うん。そのほうがおもしろい」

「だな」


 サツキはバージニーに申し出る。


「やります。お願いします」

「オッケー! そうこなくちゃね!」


 バージニーはそう答えて、トランプをシャッフルし始めた。

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