27 『マネージメント』
「あんた、なにした!」
マドレーヌが声をあげた。
「なにって、斬っただけです」
悪魔でも見たみたいに、マドレーヌの顔がゆがんだ。
――なんだこいつ! なんて顔をするんだ。
ミナトはうれしそうな笑みを口元に浮かべていた。
「とことんやれますね」
「うっ!」
わずかに下がって、マドレーヌは剣を構えた。
「ダメージが後回しってのはいいもんです。手加減しなくていいんですから」
「あんた、ちょっとヤバイんじゃないの? その年でそんな顔するかよ、普通」
マドレーヌに指摘されるが、ミナトにはなんのことだかわからない。
「いやあ、僕はおかしなことをしているつもりはないんですがね、普通だねって言われることがないんですよ。変わってるなっていつも言われているんです」
「だろうね。あんたみたいな不思議ちゃんには、駆け引きなしでいくから、覚悟しな」
「ええ。すぐにもあなたの魔法を見せてください」
「ああ。見せてやるよ」
ミナトのことをヤバイ相手だと認識しても、マドレーヌは闘志をむき出しにする。気が強いのもあるが、バージニーの魔法のおかげか、相手が強いだけではひるまないたちなのだ。
――こんな見えもしない剣にびびってすんなり負けましたって言ってちゃあ、ファンに顔向けできないからね! やってやんよ。それに、今のはなにかの間違いかもしれない。あんな神業、人間にできるか? 普通できない。なにかの間違いって可能性は捨てきれないわ。あっちの帽子の子が特殊な魔法でサポートしたってパターンもあり得なくないけど、どのみちこの剣士はワタシが始末しないとね。
「ミナト選手は挑発しているー! 本人にそんなつもりは微塵もなさそうだが、マドレーヌ選手は煽られたように戦意を強めているぞ! マドレーヌ選手のダメージは500点に達してしまったようだが、バージニー選手が大丈夫な限り、《ダメージチップ》の効果でいつまでも戦えるから、まだまだ勝負はわからない! そして、サツキ選手とバージニー選手はにらみ合いだ!」
それに対して。
サツキはバージニーへの警戒をしていた。
――もし魔法で状況をひっくり返すほどのことが起きるとしたら、それはマドレーヌさんの魔法が特異な場合だ。でも、俺が気を抜いてダメージを受けたらミナトが戦えなくなる。先に500点取られたとき、まず戦闘不能状態にさせられるのはミナトだからだ。
恐ろしく速くて強いミナトを目の当たりにした今、真っ先に処理したいのはミナトのほうだろう。
いくらマドレーヌの魔法にも警戒が必要だとしても、うっかりしていると先にサツキがバージニーに攻撃されてダメージを受け、500点を取られてしまう。そうなったら終わりだ。
バージニーはサツキにしゃべりかけた。
「すごかったね、あのスピード。到底、アタシには対処できないよ。マドレーヌちゃんでもあの速さを捉えるのはほとんど無理だと思う。でもね、勝負はそれだけじゃ決まらないわ。こっちもやり合いましょう。この勝負、アタシ次第みたいだから」
自分の魔法次第で、ここからでも試合は支配できる。
――アタシの予想。それは、あの恐ろしくヤバイ神速を出すには条件がある。だって、すごすぎるもん。試合中、この神速を使えるのはこの一度だけかも。となれば、まだまだアタシたちに可能性はある。でもこれは希望的観測ね。逆に、もし条件がもっとゆるくてまだ何度か使えても、次までのインターバルが必要でしょ。あれだけ速いんだもん、好き放題に使われちゃたまらないわよ。したがって、マドレーヌちゃんの剣がそれまでに本領発揮すれば、いける。アタシの《ダメージチップ》でマネージメントすれば、試合は
根拠と呼ぶには裏打ちされた情報などないが、バージニーにはこれまでの戦闘経験値でこのような分析が自然と導き出されていた。
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