26 『ファーストポイント』

 女剣士マドレーヌは、波打った刀身の剣を持っていた。


 ――まるで炎のようだ。


 炎が音を立てず静かに揺らめくような、とらえどころのない光を湛えているように見えた。ミナトはこんな剣と戦ったことがない。だからちょっとわくわくしていた。

 その剣は、フランベルジュといった。

 フランス語で炎を意味する剣であり、サツキの世界にも存在した剣だ。

 マドレーヌはフランベルジュを両手で持って駆け出す。

 それを見て、ミナトは馬鹿丁寧にお辞儀までしていた。


「お手合わせ願います」

「受けて立つわ! この剣・フランベルジュは肉体をズタズタに引き裂く悪魔の刃! バージニーのおかげで痛みはないけど、ダメージは……」


 走っていたマドレーヌ。

 が。

 ずっと見ていたはずなのに、ミナトはもう目の前にいない。


「え? どこに……」

「ごめん、マドレーヌちゃん」


 後ろから聞こえるバージニーの声に、マドレーヌはさっと振り返る。


「……」

「もう、斬られちゃった」

「うそでしょ! いつの間にバージニーを斬ったっていうの!? あ、あいつは……」


 ミナトを探して周囲を見回すマドレーヌに、バージニーは言いにくそう報告した。


「あとね、気づいてないかもだけど……」

「なによ?」

「マドレーヌちゃん、もう500点取られちゃってる。たぶん、即死のダメージを受けてる。アタシは腕と足を斬られたダメージの190点。二人合わせて690点……結構ヤバいかも」


 バージニーの言葉を聞いて、会場がざわめいた。


「おい、見えなかったぞ!」

「本当に斬ったのか!?」

「速すぎるだろ!」

「うおおお! すげええ!」


 観客たちの声を聞き、一階席で見ていたヒナが声をあげる。


「見たかってのよ! ミナトは普段からぼーっとしてるけど、剣のことしか考えてないくらい剣の腕だけは本物なのよ!」

「意外でした。もっと様子見すると思っていたので」


 チナミがそう言うと、ブリュノがフフと笑って、


「それもいい。が、ミナトくんにはこの試合の九割があの《ダメージチップ》による支配コントロールで進行してくことがわかった。だからあとはもう一人の魔法を見られたらいいと思ったんだろうね。負けるリスクを減らしただけさ」

「なるほど」


 確かに《ダメージチップ》は厄介な魔法だが、そこまでもう一人の魔法が軽んじられるのかは、まだチナミにはわからない。

 しかし、ミナトにはもう、それだけ《ダメージチップ》がこのあと猛威をふるうことがわかっていたのである。しかも肌感覚だけで。

 同じ一階席にいたヒヨクは、ツキヒに聞いた。


「見えた?」

「ちょっとね~」

「あれを最初にやられると、ボクらじゃ対応できないね」

「それでマッシモさんデメトリオさんもやられたし、普通無理だよ」


 クロノが実況を挟む。


「速ーい! 速いぞ、とてつもなく速ーい! まさに神速! なんという速さでしょう、ミナト選手! だれも気づかぬ一瞬の間に、マドレーヌ選手に即死級のダメージを与え、バージニー選手にも大ダメージを与えていたー! だれか、見えた人はいるのかー?」


 この実況も、見えなかったことの説明であり、バージニーのセリフでしか知ることのできなかった情報だった。


「は? ワタシ、斬られた覚えなんか……」


 気配がやっと感じられて、マドレーヌは振り返った。視線の先には、ミナトが悠然と立っていた。


「いやあ、本当に死なないでくれて助かりました」

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