22 『ダメージチップ』

 バージニーはカジノのディーラー然とした雰囲気がある。

 実際にも、バージニーはディーラーもしている。

 ただ、バニーガール風味もある衣装で、この世界のディーラーでは割と見られるものだった。

 そんな彼女のスラリと伸びた長い脚からは、リーチが長いことがわかる。

 どちらかといえば拳のほうをメインにするサツキは、相手との距離感を意識する必要がありそうだ。

 バージニーはサツキの視線を受けて、


「あら。アタシの脚、じぃーっと見つめちゃって。脚、好きなの?」


 そう言われると、つい視線をそらしてしまう。


「別に……」

「可愛い。でも大丈夫よ。お姉さんがいろいろしてあげるから、キミは~……たくさん楽しんでね」

「……。遊びで戦うつもりはないので」


 対応に困りながらもそれだけ言うと、バージニーはまた「可愛い~」と言って笑った。

 会場からは、男性ファンたちからのヤジが飛んでくる。


「ズルいぞー!」

「おまえにバージニーちゃんの相手なんて十年早いんだよ!」

「がきんちょのくせに生意気だぞ!」

「オレもバージニーちゃんに可愛いがられてえよー」

「はぁ~! アタシもサツキくんを可愛がりたいよ~!」


 サツキの女性ファンにもそんなことを言う人がいた。

 ヒナは、男性ファンの声には「ったく、うるさいわね、サツキも好きであんなの戦うわけじゃないっての」と吐き捨てていたが、最後の女性ファンには「なんで変なのが混じってんのよ! 危ないファンはつまみ出しなさいよねっ」と悪態をついている。


「まったくです」

「少しは自重してもらいたいものね」


 チナミとルカもつぶやくが、その横では、ナズナがちょっと顔を赤らめてもじもじしながらリラとクコに聞いた。


「か、可愛がるって……サツキさん、なにされちゃうのかな……?」

「気になりますね。剣などの武器はないので、暗器か、それともなにかの武術を心得ているのか。彼女たちの前の試合はちゃんと見ていなかったのでわかりません」


 まじめな顔で真剣に答えるクコを見て、リラは苦笑いする。


「確か、足技が得意な武闘家らしい動きをしていたかと。でも、魔法は使いませんでした。いずれにしても要注意ですね」

「そ、そうだよ。さすがに試合だし、いくらサツキくんが可愛いからって、こんな大勢の前で変なことはしないよ」


 とアシュリーも赤面しながら言った。

 シンジ曰く、


「あの二人はルックスが売りだけど、ちゃんと強いからね。油断はできないよ。特にバージニーさんの魔法は特徴的だから」

「どんな魔法なんだ?」


 バンジョーが聞くと、シンジは端的に説明した。


「簡単に言えば、ダメージコントロールかな。与えたダメージをあとでまとめて支払わせたり、自分のダメージと引き換えたり、そういうことができるんですよ」

「なんかよくわかんねえ」


 さっぱりなバンジョーにヒナがつっこむ。


「ちょっとは考えなさいよっ! せっかく説明してくれたのよ?」

「ま、とりあえずまずは見ようぜ」

「それはボクのセリフだよ」


 と、シンジが苦笑いしながら小さな声で言った。

 アキとエミが飲食物の販売員を見つけて、「ビールください」とアキが注文してエミも「あとそこのジェラートもください」と頼んでいる。それをヒナが一瞥し、「なにしに来てんのよ、あいつら」と小声でつっこんでいた。


「それにしても、ダメージコントロールなんて、目に見えるものなの?」


 疑問を呈したヒナ。

 ブリュノは足を組み、サツキとミナトを見てヒナに答えるでもなく一人でしゃべる。


「《ダメージチップ》はおもしろい魔法だ。ディーラーの彼女らしい小道具もおもしろいアクセントになっている。一見ただのチップだが、使い方次第では、キミたちは苦戦することだろう。あぁ、サツキくんの一挙手一投足に目が離せない。いいね、この試合。さあ、どう攻略するのかな?」


 舞台では、サツキたちの試合が始まろうとしていた。

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