17 『リカバリー』

 カルロスは目を疑った。

 なぜなら、サツキは彼の魔法《ビー・スティンガー》を受け、麻酔のような効果を持つ毒が全身に回って膝をつき、動けなくなったはずだった。

 だが、そのサツキが急に立ち上がったのである。

 サツキの復活に、クロノが嬉々とした声を上げた。


「来たー! サツキ選手、完全復活ーっ! カルロス選手は知らないかもしれないが、サツキ選手は魔法効果を打ち消すことができるのです! もう《ビー・スティンガー》は通用しないのかー!?」


 そうしたクロノの説明を聞いて、ハッセが「なんだと!?」と驚嘆し、デイルが「しぶとい」とだけ言った。そして、カルロスはギリっと歯を鳴らした。


「ふざけやがって! 魔法効果を打ち消すだ? 本当にそんなことができるのかってんだよ! バトルマスターのロメオじゃあるまいし」

「ロメオさんからいただいたこのグローブに秘密があります」


 サツキは手のひらを突き出すように、白いグローブを見せてやった。


「《打ち消す手套マジックグローブ》。ロメオさんの《打ち消す拳キラーバレット》を再現して作られた魔法道具だ。つまり、ロメオさんと同じ効果を持つんですよ」

「くだらねえ! 自分の力で戦えってんだよ! クソが!」


 それを聞いて、ミナトがくすりと笑った。


「《波動》で魔法を弾き返すとかもできるとは思うけどねえ、サツキなら。だって、あの人もそうだから。それでもあえて受けたのは、相手の魔法を見るため。修業の一環だよ。てことでさ、そろそろいいよね? サツキ」

「うむ。あとは自由にやっていいぞ」

「待ちくたびれたよ」


 ミナトがぐいっと腕を伸ばしてストレッチした。




 この会場に、たった今到着したコンビがいた。

 ヒヨクとツキヒが気づき、そちらに目を向けた。


「お出ましだね。前回優勝のスコット選手とカーメロ選手が」

「だね~。さすがに強そう」

「わざわざ見に来るなんて、やっぱりお目当ては……」

「だろうね~。サツキくんとミナトくん」

「うん」


 ヒヨクとツキヒが観客席に現れたときと同じように、近くの人たちがざわめき出していた。今度は女性ファンの声は少ないが、


「なんて威圧感だよ」

「怖ぇ」


 といった反応が多い。


「これが、胴禁棲健斗ドーキンス・スコット居千河召呂オルセン・カーメロかよ」


 近くに立っていた青年が尻もちをつき、スコットとカーメロを見上げた。

 二人共が大きい。

 スコットが二メートル三センチ、カーメロが一八四センチもある。そろってガタイもよく、武器も大きい。スコットは自身の身長を超える二メートル五十センチでは足らないサイズのバトルアックス、カーメロはハルバードと呼ばれる武器を背負う。

 黒いひげを口とあごにたくわえたスコットだが、年齢は二十五歳になる。しなやかな筋肉を持つ引き締まった身体のカーメロは二十一歳。

 観客たちが二人をチラチラ見ているのも気にせず、スコットが言った。


「それで、どっちだ?」

「あっちですよ。しろさつきいざなみなとは」

「小せえ。が、佇まいは悪くねえ」

「ええ」

「それでも、見る価値があるとは思えん。どっちもベスト16からベスト8ってところじゃないか?」

「前回我々が当たったのが、今戦っているカルロスとデイル。彼らは前回ベスト8です。我々にリベンジするのが目標だと豪語していたそうですよ」

「記憶にねえ」

「まあ、それはいいとして。あのデメトリオとマッシモに一瞬で勝ったというのが本当なら、要注意だと思います。彼らは」

「あんなの相手に、苦戦してるのにか?」

「情報によれば、修業の一環としてコロッセオに参加しているそうで。レオーネとロメオに誘われたとかで、友人関係にあるそうです」

「ほおん。それで?」

「はい。修業のために、相手の魔法を見極めてから戦うようにしているみたいですね」

「つまり――相手の魔法を知っているなら手加減せずに即殺する、ってわけか」

「でしょうね。あ、そろそろ動きそうですよ。彼ら」


 と、カーメロは興味津々にサツキとミナトを見た。

 スコットとカーメロが舞台を見下ろす。

 そこで、クロノが実況を再開した。


「さあ! サツキ選手とミナト選手、いよいよ本気モードだー! ここまでは相手を観察することに努めていたようです! だが、ここからは違ーう! 第三ラウンドが始まるぞ! みんな、見逃すなよー!」


 すると、ミナトが走り出した。

 サツキがその少し後ろから続く。

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