18 『アテンション』

「くるぞ! カルロス! デイル!」


 セコンドのハッセが注意喚起した。

 デイルは無言でチャクラムを投げる。


 ――どうやら、やつらが来たようだ。ワタシたちを見に来たのか? ならば、見せてやろう。スコット、カーメロ! 貴様らを倒すために磨いてきた、我らの技を!


 観客の小さなどよめきから、スコットとカーメロが観に来ていることに気づいたデイル。彼らを見て、デイルはやる気を高めていた。

 カルロスはあの二人には気づかない。苛立ちながら、


「わかってますよ!」


 とハッセに答えたときには、ミナトがもう目の前にいた。


 ――まずは、やましいセコンドを黙らせる。


 ミナトの剣が閃く。


「さあ、あとは任せたよ」


 剣は、二度閃いた。

 一度目は、ミナトに向かってくるチャクラムを弾き飛ばす。

 二度目は、カルロスの目の前で拳を通す役割をすべきチャクラムを弾き飛ばした。

 一つ目のチャクラムがデイルに向かって弾き飛ばされ、デイルのカウボーイハットのつばが切れてしまう。

 もう一つのチャクラムはカルロスの顔の真横すれすれを通り過ぎてセコンドのハッセへと飛んでいった。


「避けてよ、元ボクサー」

「ひえええええ!」


 ハッセは絶叫してしまい、硬直してしまった。

 だが、ミナトが光の速さでハッセのすぐ前に来ていて、チャクラムの穴を剣の刀身にひっかけて呆れた声を出す。


「断末魔はうるさかったけど、黙ってもらえたらしい」


 ハッセは硬直したまま気絶して、バタンと仰向けに倒れた。

 ミナトは刀身にかかっていたチャクラムを刀のコントロールだけでデイルへと投げた。


「くっ」


 デイルが避けてみせるが、避けた瞬間にはミナトの剣がデイルの首に添ってあてがわれ、動けなくなる。

 その間、サツキはカルロスめがけて突っ走り、とどめの一撃を放っていた。《波動》をまとった正拳突きである。


「《ほうおうけん》! はあああああ!」

「いつの間に! ぐるあああああ!」


 試合開始と同時に力を溜めて、カルロスの攻撃を受けている間も使わずにいた拳だった。

 カルロスが吹っ飛ばされて場外へ。

 それを視界の端に捉え、デイルがつぶやいた。


「降参だ」


 この声は『司会者』クロノにもしっかり届いていた。


「サツキ選手の《ほうおうけん》が決まったー! カルロス選手場外! ミナト選手がデイル選手のチャクラムを鮮やかに封じてしまったため、手も足も出なーい! デイル選手も降参だー! よって、この試合サツキ選手とミナト選手の勝利ー!」


 ミナトがサツキを振り返り、にこりと微笑む。


「一回戦、突破だね」

「うむ」


 クロノは名残惜しそうに試合の結果をまとめる。


「打倒スコット選手&カーメロ選手を誓っていた実力派バディーがここで散ってしまった! これは波乱が起こるかもしれないぞー! 前回ベスト8のバディーを破ったサツキ選手とミナト選手の底力は未だわからず! これは次の試合も楽しみだー! インタビューもしたいところだが、今日は試合数が多いので、また今度にさせてくれよー! サツキ選手、ミナト選手ありがとうございました! カルロス選手とデイル選手も参加ありがとうございました!」


 サツキとミナトは舞台を下りていく。

 二人の背中を見つめて、クロノは期待に胸をふくらませる。


 ――やっぱり強い。最後のが本気なんだ。二人はきっと勝ち上がる。この先の戦いはハードだと思うけど、なにかしてくれる気がする。楽しみだ。


 観客席では、前回優勝コンビのスコットとカーメロが試合を見終えて会場から立ち去るところだった。


「観に来てよかったでしょう? スコットさん」


 カーメロに聞かれ、スコットはいかめしい顔で答える。


「最後、なかなかだった。このルーキーコンビ、もしかするとあいつらに勝ってオレたちと当たるかもしれん」

「今見た限りでは、前回ボクらに負けてベスト4だったサルマンたちのほうがまだ強いかもしれない。でも、彼らにはなにかありそうです」

「だな。特に、しろさつきの最後の一撃。あれはよかった。もう一人はわからん」

「そうですか? いざなみなとのほうがヤバイと思うけど」

「まあ、それには同意だ。遊んでるみたいでわからんというのだ」

「ああ、そういう意味ですか。確かに、底が知れないですよね。あのスピードは驚異です。人間業じゃない」

「ほかは見る必要もないだろう」

「でしょうね。要注意なのは、えんさんたち。あとはヒヨクとツキヒくらい」


 そこで、ヒヨクとツキヒのほうへ視線を移す。スコットとカーメロ、ヒヨクとツキヒが目を合わせる。

 最初に、スコットがさっと身体を反転させた。


「どっちも実力は知ってる。帰るぞ」

「はい」


 会場から帰ろうとしている二人を見て、観客たちは口々に噂する。


「もう帰っちまうのか」

「観に来たのはサツキとミナトだったんだな。そんなに強いのかな?」

「昨日の試合が本気なら、かなりやると思うぞ。今日はまだ本気じゃないぜ、きっと」


 ヒヨクとツキヒも身をひるがえした。


「さて。気になる試合も終わったし、下に行こう。ボクたち今日の参加者は一階席で見たほうがいい」

「だね~。上からのほうが見やすいんだけど、ほかの試合はどっちでもいいしね~」

「で、どうだった? サツキくんとミナトくんは」

「別に」


 とツキヒは目を細め、


「微妙かな~。本気じゃないんだもん。昨日の試合を観に来てればよかったよ~」

「ま、そのうち実力を見せてくれる時が来るさ。ボクらも試合に備えよう」

「了解~」


 こうしてヒヨクとツキヒも二階席から出て行き、女性ファンはさみしがったが、周囲の観客たちはなぜかちょっとホッとしたのだった。

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