16 『アネスシージア』
一階席では、ヒナが慌ててチナミに聞いた。
「ねえ、なにが起こったの? あいつ、なにしたっていうの?」
「わかりません。私には」
チナミもぽつりと言う。
「サツキくん……」
心配するアシュリー。
カルロスの魔法については、シンジが答えてくれた。
「《ビー・スティンガー》。それがあいつの魔法だよ。身体に毒針を刺すんだ。受けると、ただちに毒が回って三分でまったく動けなくなる。その後の一分間は全身麻痺で身動きが取れず、カルロスがなぶり殺しにする。この一分間が終われば、徐々に身体からは毒が抜けて元に戻るけど……」
「戻ったときには、ノックアウトされているってわけね」
と、ルカが言った。
「なるほど。それなら、対処さえ遅れなければ、サツキさんなら」
「そうですね」
チナミとリラは、話を聞いてむしろ安心したようだった。サツキならば、それに対応する技があるからだ。
ナズナは両手の指をぎゅっと組んだ。
――大丈夫だよね。頑張ってください、サツキさん。
無事を祈るしかできない。
そんな彼女たちに対して、ブリュノは余裕そうだった。フフと微笑む。
「きっと……サツキくんの分析も、もう終わっている頃だ。ああ、楽しみだね。彼らの本領発揮が」
「おーし! じゃあ応援するか! いけー! サツキー!」
バンジョーが応援を始め、
ここで、クコがアキとエミを連れて戻ってくる。
「ただいま戻りました」
「やあ! みんな!」
「お待たせー!」
「待ってないわよ! それより、いいから応援よ、サツキ今ピンチなんだから!」
ヒナに言われて、アキとエミは「なんだって!?」と声をそろえて、応援を始める。
「頑張れー!」
「ファイトー!」
舞台上では、『司会者』クロノが状況を解説している。
「サツキ選手、立ち上がる! しかし、カルロス選手はまだ攻撃を仕掛けない。これは、余裕の様子見かー? 弱った相手をなぶり殺しにするのがカルロス選手のスタイルです。サツキ選手、早く対応しないとまずいんじゃないかー?」
カルロスはサツキを見てニヤニヤしている。
一方でサツキは、身体に感じる違和感、症状を考えていた。
――どんどん身体の動きが鈍くなるのがわかる。殴った相手に、麻酔みたいな効果を付与するものか。
その想像はおおよそ当たっていた。
「麻酔、か」
カルロスは勝利を確信し、つらつらと述べる。
「お、よくわかったな。そんなところだ。正確には、毒針だがな」
「毒針?」
サツキはその言葉を聞いて、もう身をもって効果を実感する必要もないと悟った。
――弱った相手をなぶり殺しにするスタイル。ならば、余裕ぶって説明してくれる。もう自分で効果を調べる必要もない。解除だ。
カルロスの後ろから、セコンドのハッセが指示を出した。
「おしゃべりはいい! さっさとやっちまえ! ぶっ飛ばせ! なぶり殺しにしろー!」
「ちょっと待ってくださいよ、ハッセさん! こいつには、オレの力を教えてやりたいんすよ! この生意気なルーキーには!」
「あの馬鹿」
と、ハッセが小声で吐き捨てる。
相方のデイルも「仕方ないやつめ」とつぶやいた。
サツキはまた膝を崩した。今度は完全に両の膝をついてしまう。そして、右手でさっき殴られた左の腕を抑える。
そんなサツキを見て、カルロスは話し始めた。
「ああ。毒は、麻痺の効果を持つ。どうだ? どんどん動けなくなるだろう? そうさ、三分でまったく動けなくなる代物なんだからよ! その後、一分間は完全に動けないままなんだぜ? また三分すれば徐々に回復していくが、回復したときには……フハハ! フハハハハハッ!」
「なるほど。その分だと、ほかに魔法はなさそうだな」
「は? だから? いくつ魔法を持ってるから偉いとか、そんなこと考えてんのか? てめえは」
「いや。観察の時間は終わったって話です」
すっとサツキが立ち上がり、左手をパッと開いて腕を伸ばす。ビリッと《波動》が走って、乱れていた左腕にも魔力がみなぎる。
カルロスは目をぱちくりした。
「な、なんで立てるんだ……てめえ……!」
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