8 『リベンジャーズ』

 Bブロックのトーナメントが始まって三試合が終わり、次はサツキとミナトの番となった。

 トーナメントにおける一回戦では勝利者インタビューなどもないので、勝った選手も負けた選手も試合後はさっさと舞台を下りていく。

 暗い通路の出口前で出番を待っていたサツキとミナトは、さっき試合をしていた選手二人とすれ違うと、光の下へと歩いていった。


「いやあ、いつもより人が多いから耳が痛いくらいだ」

「俺たちを応援してくれる声も聞こえてくる」


 観客席からは、サツキとミナトの名前を呼んでくれる声もあった。

 舞台の階段を上がっていくと、『司会者』クロノがサツキとミナトを紹介してくれる。


「お次は、Bブロック最注目のカードです! まずは、『波動のニュースター』しろさつき選手と『しんそくけんいざなみなと選手の登場だー! コロッセオに足を踏み入れたのは四日前、それから毎日出場して、強敵を相手にしながら三勝一敗の成績で『ゴールデンバディーズ杯』に間に合ったのも昨日のこと。ダブルバトル部門で五十勝したデメトリオ選手とマッシモ選手にも勝利した期待のルーキーです!」


 この紹介を聞いて、観客席はざわめいている。

 普段は昼間から試合があるためあまり足を運べないコロッセオファンなどは、サツキとミナトを初めて知ったのである。


「おいおい、そんな強いのか」

「デメトリオとマッシモっていったら相当やるぜ」

「だが、相手はやつらだ。Bブロック突破最有力の一角、実力はベスト4クラスとも言われているあいつらだ」

「どれだけやれるか、だな」


 だが、クロノのしゃべりはまだ続く。


「二人の秘めた実力はまだ底が見えず、ワタシもつかみきれません。しかもこの二人、本大会の顔である『バトルマスター』ロメオ選手とレオーネ選手ともご友人だそうです。四日前のレオーネ選手とロメオ選手の試合をごらんになった方はご存知かもしれませんね」


 これにも、観客たちはざわざわと話し合う。


「あのロメオさんと友人? なんで?」

「さあ」

「おれが聞いた話だと、サツキとミナトの組織が最近マノーラでちょっと噂になってるえいぐみで、『ASTRAアストラ』と同盟関係になったからってことみたいだぞ」

「士衛組? 知らねえな」

「いや、人助けした組織って聞いたが」

「妹がサツキくんのこと可愛くて良い子だって言ってた」

「可愛くて良い子が勝負で勝てるのか?」


 などなど、観客たちはサツキとミナトに興味を抱き始めている。


「確か、ヒヨク&ツキヒと戦ってそこそこいい勝負したんだよな」

「それって三十勝したコンビじゃねえか。すげーな」

「実力はあるってことか」


 だがここへ、対戦相手のバディーがやってきた。

 舞台に上がってきた二人の選手。

 一人は指先で銀色に光る輪っかを回したカウボーイハットの青年、もう一人は赤いボクシンググローブをはめた青年である。

 クロノは彼ら二人の登場を見て、紹介に移る。


「ルーキー二人の前に立ちはだかるのは、この二人だー!」


 手をばっと二人の選手に向ける。


螺留曽泥瑠ラルッソ・デイル選手と張菩早刈炉主バルボサ・カルロス選手です!」


 これまでの一回戦の出場たちと比べて、今日で一番大きな声援が飛び交う。

 カルロスとデイルは手をあげてファンたちの声に応えながら舞台に上がり、足を止めた。


「『ゴールデンバディーズ杯』ファンのみなさんはご存知でしょう! カルロス選手とデイル選手は前回のベスト8! 前回優勝のバディーに敗れベスト8に甘んじた彼らですが、その実力はだれもが認めるところです!」


 さっそく、カウボーイハットの青年がサツキとミナトを指差した。


「勝つのはワタシたちだ! ここで散れ!」

「そういうことだ。てめえらなんざ眼中にねえ! オレたちの目的はただ一つ! スコットとカーメロの野郎にリベンジすることッ! このカルロス様が、まばたきする間に終わらせてやるよ!」


 そう言って、カルロスと名乗った青年が右のボクシンググローブを高く掲げた。

 カルロスの宣言に、会場が沸いた。

 背が高く、一九〇センチを優に超えるカルロスだが、サツキの世界のボクシング選手と違い体重による階級の違いもないこのコロッセオでは、体格は大きければそれだけよいことで、当然カルロスもガタイがいい。坊主頭で顔もいかめしい黒人だ。年は二十三歳。

 相方のデイルは、カウボーイハットをかぶった中肉中背で、身長は一七五センチほど。帽子以外の身なりもカウボーイっぽい。人差し指で回している銀色の輪っかは武器だと思われるが、どう使われるのかはまだわからない。俗にチャクラムと呼ばれる投擲武器として知られる。

 熱烈なファンがいるわけではない様子の二人だが、おもしろい試合が見たい観客たちは大声で盛り上げていた。

 相手側にはセコンドらしき五十歳くらいの男性がいて、しきりにカルロスに声をかけている。


「そうだ! よく言った、カルロス! おまえらの相手はスコットとカーメロ! やつらを倒すことだけ考えて、おまえらは厳しいトレーニングを重ねてきたんだ! この程度の無名のルーキーなんざ一ひねりにしてやれ!」

「おう! ハッセさん!」


 と、カルロスが答える。

 セコンドは巌端背ガーン・ハッセといって、元ボクサーだ。現在はカルロスとデイルのセコンドをしており、特にカルロスのトレーナーといえる存在である。かつてはコロッセオでも戦っていた経験があり、彼のボクシングスタイルはカルロスに引き継がれている。

 クロノは嬉々と言った。


「カルロス選手、勝利宣言です! セコンドのハッセさんも強気だ! なお、カルロス選手とデイル選手にはセコンドがいますが、セコンドを立てるのは自由だぞ! ちなみに、ハッセさんは元ボクサーなのだ! さて、自信たっぷりのカルロス選手がどんな試合をしてくれるのか、期待しましょう! サツキ選手とミナト選手からはなにかないのでしょうか?」


 本来ならば一回戦はさっさと始めてしまうのだが、クロノは個人の興味なのかサツキとミナトにさらっと振った。

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