94 『トラディショナルディッシュ』

 夕食はこの日もおいしかった。

 蟹クリームのパスタは濃厚だったし、ポルケッタと呼ばれるローストポークはイストリア王国伝統の味だがサツキの口にも合った。

 せっかくのマノーラというで、マノーラの名物を積極的に出してくれている感じがする。実際は、マノーラの料理を料理人・バンジョーがグラートに習い、その完成品を食卓に並べているのだが。

 ほかにもサラダやストリートスナックもあって、鱈のフリッターであるフィレッティ・ディ・バッカラもサツキは気に入った。

 メニューバランスなど関係なく、バンジョーが作り次第いろんなものが食べられるとあって、サツキとミナトは次から次へと食べた。

 デザートが出てくる頃、サツキはミナトに聞いた。


「フウサイとの修業はどうだった?」

「いやあ、フウサイさんがまたすごくなってるからシビアで楽しかったよ」


 ミナトはのんびり笑っているが、そう言うからにはお互いかなり厳しい戦いをしたのだろう。

 フウサイもサツキに言うには、


「拙者の忍術、体術の成長を確認するにも、ミナト殿との修業は充実したでござる」


 とのことである。


「そうか。フウサイも成長を実感できているならよかった」

「これもレオーネ殿のおかげ。感謝に堪えぬ次第でござる」


 レオーネはにこやかに、


「オレは玄内さんにいただいた分を返しているに過ぎないくらいさ」

「新しいカードの効果には慣れたか?」


 玄内に聞かれ、レオーネはあごを引いた。


「ええ。だいぶ。でも、まだまだすべては試せていません。これから使うのが楽しみですよ」

「へっ。好きなように使ってくれや」

「はい」


 そして、デザートが運ばれてきた。

 パイのようだが、円筒状になっていて、その中にクリームなどが入っているようだ。


「こちらはカンノーロといいます。パイ生地でクリームを包む形状となっておりますが、このクリームには様々なバリエーションがあります。今回はリコッタチーズをベースに、バニラの風味が強めになっております」

「クリームそれぞれ違った果実がトッピングしてありますよ。お好きなものをどうぞ」


 グラートとルーチェが説明した通り、果実も入っていた。

 色合いも綺麗だし、とてもおいしそうだった。

 実際に食べてもおいしかった。

 今までにサツキが食べたことがない味のまとまりで、だが食べやすくて何個でもいけそうだ。イストリア王国の料理は見た目のボリュームよりも食べやすい傾向があるように思う。

 アキとエミはどの味も食べたいようで、三つずつ食べていた。


「はあ、今日もおいしかったなあ!」

「昼間もいろいろ食べたけど、こうやってみんなで食べるとまた格別だよね!」


 唐突に、アキがくるっとサツキに向き直った。しかも、エミも同時だった。二人は目をキラキラさせながら言った。


「サツキくん、ミナトくん! 明日は応援に行くからね!」

「大会なんでしょ!? 『ゴールデンバディーズ杯』!」


 これにはミナトが答えた。


「はい。二人一組で戦う、ダブルバトル部門の大会です」

「わたしたちも応援に行きますよ、サツキ様!」


 クコもそう言うと、レオーネが片目を閉じて、


「そういうことなら、一階の関係者席にみんなが座れるよう、頼んでおこう」

「いいんですか?」


 クコが聞くと、レオーネはうなずいた。


「もちろん。普段は一階席って結構空いていると思うけど、大会のときにはそこそこ人が入る。でも、キミたちがそこに加わるくらいなんてことない」

「むしろ、二階席より上の階で観戦する人が多い分、座れなくなる人に席を譲れることになりますから、遠慮せず一階席にお越しくださればコロッセオ側も助かるかと思います」


 と、ロメオも補足を加えた。


「そっかあ! 楽しみだなあ!」

「一階席だと、近くから見られそうだね!」


 アキとエミはすっかり浮かれている。

 サツキがレオーネに質問した。


「あの。コロッセオで友だちになった人が二人いるんですが、彼らも一階席に呼んでも大丈夫なんでしょうか」

「いいと思うよ。オレからもその二人について言っておこう」

「ありがとうございます」


 と。

 ここで、リラがサツキに聞いた。


「ご友人になられたのって、どんなお方ですの?」

「一人は、シンジさんっていうせいおうこく出身の人で、俺とミナトより一つ年上なんだ。もう一人もシンジさんと同い年で、アシュリーさんっていうフィオルナーレ出身の人だ」

「アシュリー。名前からして、女みたいね」


 なぜかルカも入ってきて、リラは「はい」と眉を寄せる。


「また余計なのが現れたわね」


 小さくつぶやくヒナに続いて、チナミも、


「明日、見定めないと」


 と、ぽつりと言った。

 ナズナは仲間たちの反応に「え」と困惑しているが、クコはなにか思い出したように聞いた。


「もしかして、例の失踪事件でお兄さんが失踪してしまったっていう」

「うむ。俺たち士衛組がお兄さんを探すことはアシュリーさんに言ったし、捜査の一環として彼女に聞きたいことがあれば聞いてもいいと思う。だが、お兄さんがいなくて不安になっているときだから、あまり余計なことは聞かないでくれよ。こっちの進展もない状態だしな」

「わかりました」


 素直に答えるクコ。

 しかしルカはため息交じりにぼやく。


「そんな子がなんでサツキの応援に来るのよ」

「まったくです」

「応援してる余裕ないでしょって話よね」


 チナミとヒナも同意するが、リラは別のことを思った。


 ――ほんと、サツキ様ってばお人好しなんですから。でも、この分だと、その子もサツキ様のことを好く思って応援に来るんでしょうね。


 クコは明るい笑顔でサツキに言った。


「サツキ様。明日はみんなで応援しますからね!」

「ありがとう。頑張るよ」


 ダブルバトル部門の大会、『ゴールデンバディーズ杯』開催の前日。

 こうして、ロマンスジーノ城の夜は更けてゆくのだった。

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