93 『リメンバーワード』

 夜。

 ロマンスジーノ城では、みんなが集まって夕食となった。

 士衛組と『ASTRAアストラ』のヴァレン、レオーネ、ロメオ、ルーチェ、ラファエル、リディオの六人と執事のグラート、そしてアキとエミというメンツだ。

 サツキは、レオーネとロメオに会うと最初にジェラートのお礼を言った。今朝二人がジェラートの屋台に来て、お代を多めに払ってくれたおかげで、サツキとチナミはタダで食べられたのだ。

「いいえ。気にしないでください」とロメオは言ってくれたし、レオーネも「おいしかったかい?」と聞いて、サツキとチナミはジェラートの感想を話した。

 その後。

 夕食は、アキとエミたちを中心に、今日も楽しく賑やかな席となった。バンジョーとグラートもたくさん料理をつくって並べてくれるし、人は多いし、本当に毎日がパーティーみたいだとサツキは思った。


「サツキ様、こっちを」


 クコに呼ばれて顔を向けると、口元をナプキンで拭われた。パスタソースがついていたらしい。照れくさくてクコの顔は見ずに言う。


「わ、悪い」

「いいえ」


 にこっと微笑むクコに、サツキは照れでなにも返せずに食事に向かう。普段からサツキの世話を焼きたがるクコだが、サツキがコロッセオに参加するようになってからは別行動する時間が増えた。だから、ついそんな世話までしてしまう。

 しかし、リラもにこにことサツキに小声でささやく。


「お姉様にされるのがお恥ずかしいなら、リラがして差し上げますね」


 噴き出しそうになって、サツキは口に入れているものを飲み込み、苦笑してリラに言った。


「大丈夫だ。勘弁してくれ」

「あら。残念」


 チナミが呆れたように、


「リラ。くだらないこと言わない」

「そうよ、そういうのを余計なお世話っていうのよ!」


 と、耳のいいヒナも言った。

 さっきのリラのささやきが聞こえていたのはこの二人だけらしい。

 だが、ヒナがそう言いつつチナミの口元のソースを拭ってやると、チナミが赤い顔で静かに怒る。


「ヒナさん、子供扱いはやめてください。私は口元にソースなんてつけません」

「ほら。ついてる」

「それはなにかの間違いです」

「もう恥ずかしがっちゃってー」


 昔なじみで仲良しのチナミとヒナもわちゃわちゃやって、ナズナがおかしそうに笑った。


「でも、たくさん食べたくなっちゃうくらい、おいしいね」

「そうだね。毎日こんなにいろんなお料理が出てきて、パーティーみたい」


 リラが感激したように言うと、サツキもうなずく。


「俺もついさっき、そう思ったところだ」

「まあ。サツキ様も?」


 うむ、とサツキがうなずく。

 ルカがサツキのお皿にローストポークを取り分ける。


「サツキ、このローストポークはイストリア王国の伝統料理よ。豚肉は疲労回復にいいから食べておきなさい」

「うむ。ありがとう、ルカ」

「ポルケッタといいます。イストリア王国の伝統料理ですが、味つけはせいおうこくの方々にもなじみやすいと思いますよ」


 と、メイドのルーチェが教えてくれる。

 ルーチェは『革命家』ヴァレンの『メイド秘書』だが、お城での仕事もよく手伝うし、執事グラートと共に料理をつくることも多い。だから料理にも詳しいのだ。


「確かに、食べやすいです。おいしい」

「それはよかったです。じゃんじゃん食べて力をつけちゃってください」


 サツキの口にも合うとわかり、ルーチェはうれしそうだった。

 バンジョーは食欲旺盛なサツキとミナトに、ニッと笑いかけた。


「いい食いっぷりだな、サツキ、ミナト!」

「おいしくて、つい」

「だね。いくらでも入ってしまうんですよ、バンジョーさん」

「明日もいろいろ作ってやるからな! グラートさんに教わりたい料理はまだまだあるんだ!」

「うれしいなあ。楽しみです」


 ミナトがそう言うと、バンジョーはやる気満々に力こぶを作ってみせた。アキとエミが「おー!」と拍手して、二人もちゃっかりおかわりしている。アキとエミは酒飲みなのに、普通の食事のほうもよく食べるのである。

 レオーネとロメオがサツキとミナトに言った。


「二人共、まずは『ゴールデンバディーズ杯』出場おめでとう」

「おめでとうございます。頑張ってください」


 サツキとミナトが「ありがとうございます」と声を合わせて言うと、ヴァレンが聞いた。


「調子はどうかしら? 優勝できそう?」

「はい。そのつもりです」


 にこりとミナトが答えると、ラファエルが言った。


「今日のダブルバトル、お二人はあのデメトリオさんとマッシモさんコンビを瞬殺したそうですね」

「おれたち『ASTRAアストラ情報局』にも情報が入ってきてるぞ。すごかったってみんな言ってた!」


 リディオが楽しそうに笑いかけ、サツキは微苦笑を浮かべる。


「すごかったのはミナトで、俺は最後に一撃を放っただけです」

「謙遜しなくてもいいと思いますよ。ミナトさんがマッシモさんの手首を斬って気絶させ、デメトリオさんをサツキさんの元へ蹴り飛ばした。それをサツキさんが合わせた。充分コンビネーションで戦ったといえます」


 ラファエルの解説を聞いて、レオーネは「なるほど」と微笑む。


「さすがだね」

「サツキさん、シングルバトルはどうでしたか?」


 ロメオに聞かれて、サツキは答えた。


「昨日ダブルバトルで負けて、自分の戦い方に迷いがあったんですが、ロメオさんの言葉を思い出して立て直せました」

「ワタシの言葉で……それは光栄です」


 だが、それがどんな言葉なのかは聞かない。ロメオには通じるところがあったのだろう。サツキがありがとうございましたとお礼を述べても、ロメオも「はい」と言うだけで、サツキにはわかり合えた気がした。

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