67 『バトルスタイル』
ロマンスジーノ城に戻ったサツキとミナト。
二人は、すぐに修業を始めた。
「ヒヨクくんとは柔術と空手で戦ったんだが、一度も拳をクリティカルに当てられなかった。だから柔術相手の戦い方を修業しないといけないって思ったんだが、どうだろう」
「サツキのほうが僕よりも柔術についてわかっているかもしれないけど、僕からの意見」
「なんだ?」
「柔術相手には、武器を使ったほうがいい。サツキのことだから、柔術相手を想定した空手の修業を考えてるだろう。でも、いっそ刀を使ったほうがいいと思うんだよね」
「なるほど。言われてみれば」
「リベンジするってことばかり考えて、戦法を変えることを忘れてたんじゃないかい? サツキには剣もある。使える武器は使わないと」
「そうだな」
剣ならば、距離を稼げる。近距離でないと戦えない空手よりも柔術相手には都合がいい。
それに気づけなかったことを思うと、いかに自分が周りも見えなくなっていたか実感する。
「柔術相手の戦いに少しは慣れないといけないのは変わらないが、俺は剣を使うことでヒヨクくんと今日以上に戦えそうだ。ミナトのほうはなにか、反省点とか質問とかないか?」
「サツキに聞きたいことはあるね」
「やはり、ツキヒくんの
「うん。あれって、結局どんな武器なんだい?」
「まず、
とサツキは前置きして、自分の世界での刀の話をしてゆく。
「俺やミナトが使っている刀。これらは、太刀と呼ばれるものだ」
「太刀はよくいうね」
「で、それよりも柄が長く、刃も長いものを大太刀と呼ぶ」
「ああ、それも聞いたことがある」
「そして、長巻は大太刀よりも柄が長いが刃が短い。普通の太刀よりはどちらも長い」
「そうだったね。ほかに特徴は?」
「長巻は、太刀や薙刀ほどは普及しなかった武器だ。だから学術的な分類がしっかりとはされていない。長巻よりももっと柄が長い薙刀と分類を同じくする見解もあるくらいなんだ」
「薙刀なんて、まったく別ものに思えるけどね」
「形状ではな。だが、大きくて振り下ろすだけでかなりの威力を見込める点で、長巻は薙刀とも近い魅力がある武器だ。俺の世界の戦国武将も、長巻の有利さや実用性に着目した。戦場で武士にもたせたらしい」
「へえ。じゃあ、戦い方にはどんな違いが出るのさ」
「そうだな。人馬を薙ぎ払う使い方に特化した薙刀、これと同じく長巻は薙ぎ払う性能が高い。でも、薙刀は柄の長さのおかげで間合いを稼げる。だから振り回すだけでいい。それに比べて、長巻は薙刀よりも柄は短く、刃が長い。ゆえに、威力の高さが最大の利点だが、振り回すだけでいい薙刀と違って、扱うには技術がいる。大きい武器だから、本来はスピードのあるミナトに分があるけど、ツキヒくんの技術が高いために、呼吸や間合いの違いを感じて戦いにくかったんだろうな。そのうえ威力が高いと、脅威に感じやすいだろうし」
「つまり、扱いが難しい高威力の大きな刀って感じかな?」
「まあ、ちょっと違うけどそうなる」
サツキもおおよそで知っているのがそれくらいだから歯切れが悪い。
それでも、太刀のスペシャリストでもあるミナトには、感覚的にかなりのことがわかった。
「よし。それじゃあ、僕はパワーもアップさせて、スピードをもっと磨く。そして技術も高める」
「全部じゃないか。なんの解決にもなっていないような気もするぞ」
「いや、特徴がわかればなんとなくわかることもあるし、やれそうな気がしてるんだ」
適当なことを言うミナト。
つい、サツキは笑ってしまった。
「さすが、天才剣士だな」
「なにか言ったかい?」
「いや。頼もしいよ。そのいい加減さが」
「あはは。サツキも適当なことを言って。でも、心構えができたらあとは修業だ。サツキ、やろうぜ」
「うむ」
二人は剣術の修業を開始した。
以前、サツキが玄内にミナトの剣の腕について尋ねたとき、玄内は評価できないとしたことがあった。
それほどにミナトには才能があり、すでに天下無双の実力がありながら底が知れないというのだ。
玄内をしてそう言わしめる天才剣士・ミナトには、もう彼にしか見えない光が見えているかもしれない。
それならば、サツキはとことんミナトに付き合うだけだ。
修業は、昼間の試合以上に激しく、充実したものになった。
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