66 『ネクストチャンス』
コロッセオ、一階席。
ここでサツキとミナトを応援してくれていたシンジとアシュリーの元に戻ってきた。
シンジが優しく迎えてくれる。
「おかえり。惜しかったね」
「いやあ、勝てませんでしたねえ。次は勝ちますけど」
「二人共、応援ありがとうございました」
ミナトはいつも通りの笑顔で、サツキはお礼だけ述べた。
声をかけにくそうにアシュリーが言う。
「お疲れ様。残念だったね。でも、明日は勝てるといいね。大会にも出るんでしょう?」
「うむ。そのためにも、明日は絶対に落とせないんだ」
「サツキくんとミナトくんならきっと大丈夫だよ。駆け込み参加者のほかにも強いバディーもいるけど、必要勝利数の三勝に届かないバディーも多いしね」
そんな見立てをするシンジに、ミナトも同意する。
「僕もそう思っていたんです。まあ、強いバディーと当たっても楽しそうだし、僕としてはどっちでもいいんですけどね」
「とにかく勝つだけだからか」
「そう」
平然とそう言ってのけるミナトを頼もしく思いながら、サツキはふと思い出したことがあった。
「あ、リョウメイさんのこと聞くの忘れてた」
「まあいいさ。そのうち話す機会もあるだろうしね」
「話す機会って、リョウメイさんと?」
「いいや。ヒヨクくんとツキヒくんだよ。『ゴールデンバディーズ杯』に出場して優勝するつもりなら、遅くとも決勝では当たれるじゃないか」
「それは、確かに、お互いに負けなければそうなるが」
「あんまり深く考えても仕方ないよ、サツキ」
「うむ。それもそうか」
ミナトにとってリョウメイという存在は古い友人でしかないが、サツキからすれば引っかかる存在だった。敵対はしなくとも、意味ありげな不敵な微笑みでなにか企んでいそうなイメージがある。
――でも、そうだよな。ミナトの言う通りだ。考え過ぎてもしょうがない。答えなど出ないんだから。
頭を切り替えて、サツキは気になっていたことをアシュリーに尋ねた。
「そういえば、アシュリーさんは今日の宿って大丈夫ですか?」
「そうだったね。お兄さんがいなくなって、行く当てがなくなっていたら大変だ」
とミナトもアシュリーを見やる。
「大丈夫だよ。一応、三日間の宿は取ってあるんだ。そのあとは、コロッセオでの稼ぎ次第でアパートを借りるつもりだったんだけど、とりあえず、今日、明日、明後日は借りてるお部屋があるから」
「ふむ。それならひとまずの宿は大丈夫か。早くお兄さんの事件も解決したいけど、もし宿を借りるのが難しくなったら、『
「そんな。悪いよ」
「まあ、無理にとは言いませんが、そういう方法もあることは覚えておいてください」
「ありがとう、サツキくん。わたし、こっちではお仕事もしてないし、探さないと生活できなくなっちゃうから、まずはお仕事探しもしてみるね」
「はい」
アシュリーは現在十四歳。
学校に通っていて普通の年齢だが、サツキの世界の年齢感なら大学生になるくらいだから、こっちの世界だと働き始めている人も多い。特にイストリア王国などのルーン地方では、その年齢まで学校に通えるのは裕福な家の子がほとんどだ。
そのため、アシュリーの兄・サンティは妹を不自由させないためにコロッセオで稼ごうとしていたらしいのだが、その兄がいない今、働かなければアシュリーは生活できない。
シンジもちょっと困ったような苦笑を浮かべて、
「働き口か。ボクはコロッセオの賞金でなんとか貧乏暮らししているから、紹介とかできないしなあ」
「『
「そうだな。この町の至る所に『
ミナトとサツキが提案すると、アシュリーは遠慮がちに答える。
「わたし、まずは自分で探してみようと思う。でも、あと何日かしてお仕事が見つからなかったとき、ご迷惑じゃないなら、お願いできるかな?」
「もちろん」
「ありがとう。サツキくん、ミナトくん」
ちょっとホッとしたようなアシュリーを見て、ミナトは言った。
「それじゃあ、僕たちは帰りますね。修業しないとなので」
「シンジさん、アシュリーさん。また」
「うん。また明日ね」
「また明日。わたしも明日、応援に来るからね」
二人と別れて、サツキとミナトは帰路につく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます