65 『ブリンク』

「この試合の結果により、ヒヨク選手&ツキヒ選手はついに大台の三十勝目に到達しました! みなさん、またまた拍手を!」


 景気よく『司会者』クロノが声をかけると、会場からはまた溢れんばかりの拍手が鳴る。


「ヒヨクくんかっこよかったよー!」

「ツキヒくんサイコー!」

「応援してきてよかったぁ、二人共愛してるー!」

「三十勝おめでとうー! これからも応援してるからねー!」


 女性ファンがたくさんの声援を送ってくれている。

 その女性ファンなのか、サツキとミナトにも声をかけてくれる人もいる。


「サツキくんとミナトくんもよかったよー! またヒヨクくんとツキヒくんと戦ってあげてねー!」

「二人ならもっと強くなれるよ!」


 ヒヨクとツキヒを応援しているファンが、サツキとミナトも褒めてくれているのだろう。しかしそれはサツキとミナトには響かない。ありがたさよりも、悔しい気持ちしかなかった。

 クロノがまた解説する。


「サツキ選手とミナト選手ですが、このコロッセオで初の敗北で、二勝を維持する形になりますので、明日勝たないと目標の『ゴールデンバディーズ杯』には出場することができません。みなさん、サツキ選手とミナト選手のことも応援よろしくお願いしますね! ただ、二人共かなり見応えのある勝負を見せてくれましたし、明日への期待は高まっていることでしょう!」


 今度は純粋にサツキとミナトのことを応援してくれる人もいて、


「頑張ってー!」

「大会前日は魔境だが、おまえらならやれるって信じてるぞ!」

「ぶつかましてやれ! おれらがついてるからな!」


 男性ファンも力強いエールをくれた。

 サツキとミナトはその声が届いて、やっと顔を見合わせて小さく笑った。


「頑張らないとな」

「うん。楽しみにしてくれてる人、応援してくれる人がいるんだもんね。頑張り甲斐があるよ」


 気持ちを改める二人に、ヒヨクとツキヒが声をかける。


「サツキくん、ミナトくん。楽しい試合をありがとう」

「ヒヤヒヤするバトルだったな~。久しぶりにやばかったかも~」


 二人がやってきて、ヒヨクが手を差し出す。ツキヒも手を差し出したので、サツキとミナトも握手を交わした。


「こちらこそ、ありがとうございました」

「お二人とはまた戦いたいなあ。そのときはお願いしますね」


 ミナトがそう言うと、ツキヒがユルい笑顔で答える。


「もちろん、次も負けないよ~」

「こっちこそ、負けないよ」


 と、ミナトが返す。

 クロノはしゃべりながら、


「四人に友情が芽生えたようです! いいですねえ! これぞコロッセオです! さあ、それでは勝利者インタビューをしましょう! せっかくですから、本日最終戦ということで、サツキ選手とミナト選手も明日の抱負を聞かせてください!」


 とサツキとミナトのことも呼び止める。

 そのまま舞台を下りようとしていたサツキとミナトも、そう言われては舞台に残らないわけにはいかない。

 さっそくクロノは勝者のヒヨクとツキヒにインタビューを始めた。

 二人のインタビューの間、サツキとミナトは黙ってそれを聞いていた。

 その後、インタビューがおおよそ終わると、クロノがサツキとミナトにも質問した。


「さて、サツキ選手とミナト選手は明日の試合に勝たなければ『ゴールデンバディーズ杯』に出場できない瀬戸際、まさに崖っぷちですが、今の意気込みはどうですか?」

「明日は絶対に勝ちます」

「サツキ選手の力強い言葉、頼もしいです! ただ、明日は『ゴールデンバディーズ杯』に参加したい選手たちの駆け込み参戦があり、魔境と化す可能性も高いので難しいところですが、そのへんはいかがです?」

「いやあ、それなら実績のある強い人たちよりも、僕たちみたいな新人が多いってことですから、戦いが厳しくなるばかりでもないと思ってます。ギリギリの戦いなら、それを楽しみたいですねえ」


 ミナトがそう言ってのけると、クロノはうれしそうに声を張った。


「それでこそミナト選手! いやはや、ミナト選手の言葉を聞いていると楽しみで仕方ないです! 明日の試合にも期待しちゃってますからね! 頑張ってください! ワタシは、お二人が『ゴールデンバディーズ杯』で大暴れする姿が見たいんです!」

「はい」

「任せてください」


 サツキとミナトが答えると、クロノはまた会場に声をかける。


「以上、サツキ選手とミナト選手から意気込みを聞かせていただきました! 私事ですが、本当にサツキ選手とミナト選手のファンでもありますので、ぜひとも頑張っていただきたいところです! さあ! 本日のプログラムもこれで終わりとなります。ご来場のみなさん、ありがとうございました! お気をつけて退場なさってください! 司会はこのワタシ保見黒野フォーミ・クロノが務めさせていただきました! それではまた次回!」


 舞台からそれぞれ下りていくサツキとミナト、ヒヨクとツキヒ。

 クロノはサツキとミナトの背中を見て貝殻をきゅっと握る。


 ――きっと、キミたちなら明日勝って大会にも出てくるって信じてるよ。キミたちに期待したワタシの直感が正しかったこと、証明しくれよ。サツキくん、ミナトくん。


 サツキとミナトが初参戦した際、クロノはサツキとミナトをただ者ではないと直感し、二人に期待した。そして、二人がレオーネとロメオの友人だと知り、その直感が正しかったと確信した。しかし、その二人が今日ヒヨクとツキヒに敗れ、大会に出られるか危ぶまれるところにある。

 それでも、クロノはサツキとミナトの持つなにかに期待していた。

 ミナトは舞台から下りて、同じく舞台から下りていくクロノを見て、サツキにささやいた。


「なんか、クロノさんって僕らを応援してくれてる感じするよね」

「本人もそう言ったばかりじゃないか」

「そうなんだけど、パフォーマンスじゃなくて、本気で僕らに期待してるなって」

「うむ。そうかもな」

「だからさ、明日はいいところを見せようぜ。相棒」

「よし。帰ったら修業だな」


 会場にはまだ熱気が残り、観客たちは賑やかにコロッセオをあとにするのだった。

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