64 『シグナルチャック』
ヒヨクがサツキとミナトを順番に見て、ツキヒに言った。
「思った以上にいいコンビじゃないか?」
「おれたちも負けてなくない?」
「まあ、そうなんだけどね。だからこそ、負けたくないなってさ」
「それ、ある~」
本気でどれだけそう思っているのかわかりにくいが、このユルさがツキヒの性格なのだろう。
「勝って三十勝すれば、ぼくたちがリョウメイさんに課せられた必要勝利数に届く。そして、『ゴールデンバディーズ杯』でも優勝して、晴れて
「うん。そうだね」
ツキヒが静かに目を閉じてうなずいた。
サツキは疑問を浮かべる。
――別に、二人はレオーネさんとロメオさんに挑戦するとかあの二人に勝つとかが目標じゃないのか。リョウメイさんがなぜヒヨクくんとツキヒくんをコロッセオに参加させているのかはわからないけど、俺たちは強くなるために勝つ。この階段ものぼって、上に行くんだ。
試合の大詰めとなり、サツキとミナト、ヒヨクとツキヒが戦闘態勢に入った。
そして、『司会者』クロノが水球貝を握りしめて実況する。
「さあ! ここからは一切目が離せない戦いになりそうだ! 先に動くのはだれだ!? 四人が見合っている中……動いたー! 最初に動いたのはミナト選手です! ミナト選手が斬りかかるー! ツキヒ選手、遅れを取ることなく刀で受けたー! さすがは
普通の刀は太刀と呼ばれ、それより柄が長く刃も長いものを大太刀といった。長巻は、大太刀に比べると柄がさらに長い。薙刀にも近いが、薙刀よりも刃が長く柄が短い。そんな特徴を持った長巻だが、薙刀と分類が同じくされることもあるほど明確な差別化がなく、マイナーな武器ともいえる。
だが、有利さや実用性に目をつけ、サツキの世界では織田信長や上杉謙信などが家臣たちに持たせて戦った。
ミナトは長巻をよく知らないため、やっと腑に落ちた。
――そうか。長巻は普通の刀とは違う。だからなんだか戦いにくかったんだ。
だが、気づいたところでその武器への対処を理解しているわけじゃない。そのためミナトの刀はいつもキレが戻らない。
「いい勝負だぞ! ミナト選手! ツキヒ選手! どちらも引かない剣と剣のぶつかり合い! 熱くなるバトルだ! サツキ選手とヒヨク選手も戦いがヒートアップしている! さっきは投げ飛ばされてしまったサツキ選手は慎重にいくが、ヒヨク選手はガンガン攻める! あああああーっと! サツキ選手の《波動》を込めた拳が、ヒヨク選手を襲うー!」
サツキは溜めてきた力を解き放つ。
「はあああああ! 《
「それを待ってたんだ! 《
ヒヨクが素早くサツキの懐に入り、サツキの腕を取って投げた。
このとき、ミナトの剣をツキヒが受けつつ、魔法を繰り出す。
「今度は全部だよ」
次の瞬間、ミナトの目と耳が封殺された。視界が奪われ、音も聞こえない。さっきやられたときもいつ仕掛けられたのかわからなかったが、それを踏まえた対策もなかった今回、またよけられなかった。
気配を頼りにツキヒの剣を払う動きをしてみせたミナトだが、
――あれ? 腕をつかまれた?
状況がわからず、そのままミナトは投げ飛ばされてしまった。
目が見えず、音の聞こえなかったミナトには、だれがそれをしたのかを理解できなかった。
「やりましたヒヨク選手! サツキ選手を投げると、間髪入れずにミナト選手に詰め寄り、ミナト選手も投げたー! 実に見事! 絶妙なコンビネーションだー! ツキヒ選手の《シグナルチャック》に視界を封じられ、音も消された結果、サツキ選手の戦況を把握できず、ヒヨク選手が近づいたことにも気づけなかったようです! ミナト選手の不思議な身のこなしでも、舞台に上がってくることはできないー! しかし、着地は華麗でした」
ミナトはしゅたっと着地したが、それが舞台の外だとはわからない。
サツキが隣にやってきて、ミナトの耳と目にかかった魔法を解除して初めて、そこが場外だと知った。
「あれ? サツキ、僕ら外にいる?」
「うむ。やられた。俺は実力不足、ミナトはツキヒくんの魔法にかかったせいで、二人がかりで攻撃されたことへの対処が追いつかなかった」
「なるほど」
「悪い、ミナト。俺のせいだ」
「いやあ、それは違うよ。僕もまだまだだった。彼らがすごいのもあるけど、ダブルバトルの奥深さを理解できてなかったんだ」
「そう、だな。出直そう」
「うん。明日勝つためにね。さあ、反省会はあとだ。舞台に戻ろう」
場外から、サツキとミナトは舞台へと戻っていく。
クロノが判定した。
「さて! サツキ選手とミナト選手が場外になったことにより、勝者はヒヨク選手&ツキヒ選手のバディーだ! 同い年、同じ
会場からは拍手が起こる。
しかし、勝者のヒヨクとツキヒには賞賛の声と黄色い声援がこれでもかと降り注ぎ、会場はすごい盛り上がりになっていた。
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